2023年に視聴した映画短評(その8)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

今回は2022年に公開されたアニメ映画特集

 

・私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ 2.5
椋木ななつの同名コミックの劇場アニメ化で、2019年にはTVアニメ化されている

内容的には日常系アニメの劇場版あるあるで、夏休みの旅行記でちょっとしたトラブルがありつつって感じ。上映時間60分台なのもあって内容は薄めだが、ダラダラとした展開よりはいいか。長瀞の観光名所やイベントを巡るので、実際に旅行に行った気分になれる

基本的には旅行記だが、それぞれの"カップル"が関係を深めていく様子に重点が置かれている。その分、毒のある発言が少ないのは残念な所。可愛さでオブラートに包んだ毒がわたてんの良さだと思うのだが

その中でも松本は相変わらずだが、できれば"答え合わせ"して欲しかった。他のシーンにも出てきていたと思うし

わたてんを知らない人が見るとは思えないが、出来れば原作やTVアニメを観てからの方がいいだろう。超絶作画ではないが十分なレベルだし、スタッフも多くがTVアニメ版と共通なので安心感がある。似非声優が子供を演じると、かなり酷い演技になりがちだし。作品名は出さないけど

 

・すずめの戸締まり 2.7
君の名は。」「天気の子」に続く新海誠監督の長編アニメ映画。冒頭の十数分も予告編も悪くなかったので、終映前に駆け込み視聴することに

東日本大震災と日本の民話や神話をベースにしたファンタジーの融合は川面真也監督の「岬のマヨイガ」があるが、岬のマヨイガ柏葉幸子の小説をベースにしているのに対して、本作はアニメオリジナル

似ている点もある両者だが、大きく違うのは本作はボーイミーツガールからのロードムービーである点。前2作より恋愛要素は弱めだが、ストーリー上、鈴芽が草太に本気になっていく様はきちんと描いて欲しかった

一方、ロードムービーにしたのは大正解だと思う。作画の良さが活きるし、ストーリーのテンポも良くなる。作画の良さを活かすならバトル物でもいいが、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」等ライバルも多い。本作にもバトルシーンはあるが、そこには重きを置いていないだろうし、特に見どころはない

相変わらず話が”薄い”が、多くの層を対象とすると深い話にはできないだろうし、某任天堂動漫に比べればマシ。ただ、ダイジンの行動原理とか最後まで観ても謎の要素が多いので、「戸締まり」についてはもっと説明が欲しかった

それと相変わらずリアルとファンタジーの噛み合わせが悪い。前作よりはマシだが、ストーリーの本筋に関係ない所でリアリティに拘ってストーリー展開が苦しくなる新海誠マッチポンプ劇場は本作でも健在だ

「天気の子」が酷すぎただけで、本作はアニメ作品としては普通。しかし脚本力のなさは相変わらず。プロットは悪くないと思うので、次回作こそ新海は原案のみで脚本は他の人に任せて欲しい

 

・夏へのトンネル、さよならの出口 2.2
八目迷による同名小説のアニメ映画化。夏xボーイミーツガールはジュネリック新海臭が半端なくクオリティに不安しかないが、そもそも新海…

上映時間は83分と短め。カオルとあんず以外の話以外は殆どカットしたと思われる(筆者は原作未読)。テンポが良くて見やすくはあるのだが、後述するように弊害もあってやり過ぎだと思う

本作のSF要素はぶっちゃけおまけ。ウラシマトンネルの仕組みを二人で調査して…って内容だが、結局ご都合主義って感じだし。そもそもあんずが参加したのはカオルに好意を寄せているからと考えるほうが自然で、ウラシマトンネルを口実にしたラブストーリーが本線だろう

作画はそこまで良くはないが、印象に残るシーンは気合を入れている感じ。ただ、全体的に動いているシーンがイマイチ。バトルアニメ程アクションシーンは重要ではないが、走っているシーンはストーリー上重要だしもっと頑張って欲しかった

キャストだが、カオル役は鈴鹿央士。本作のアニメ制作会社であるCLAPの前作「映画大好きポンポさん」の新人女優役に比べれば遥かにマシだが、本作はラブストーリーな上に大半がカオルとあんずの絡み(エロい意味ではない)、あんず役とは演技力に明らかに差があるし、正直お呼びでない

あんず役は飯豊まりえ。花澤香菜の大人モードっぽい声はキャラに合っているし、人当たりが良くないがカオルの前ではデレることもある可愛い一面も演じられていたと思う。泣くシーンとか物足りない所はあるが、これだけ演じられれば”普通は”文句は言われないだろう。ざーさんの初期の頃とかねえ…

但し、本作は演技に依存する所が大きい。最後のシーンで泣けるかどうかが本作の評価に繋がると思うが、そこまでの過程を端折っている。川崎らクラスメイトとの絡みをカットしているのであんずが一目置かれる存在であるという印象が薄いし、失踪後あんずが葛藤する描写が足りないので話にタメがない

本作は先に声を録音して画を合わせているらしいが、そこまでするなら素直に本職の声優を声優を使えばよかったと思う。この脚本であんず役で泣かせるのは本職でも苦労しそうだが、少なくともカオルは明らかに鈴鹿央士よりはいいでしょ

どうしても芸能人を起用してサクサク観れる話にしたいのなら、(見捨てる)バッドエンドにすれば良かったと思う。それなら葛藤する描写もいらないしね。ただ、それだと原作ファンが怒り出しそうで脚本を押し通す勇気はないだろうなあ

 

・『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』 0.0
乙野四方字の同名小説を2作同時に映画化。極刑評価につきボロッカスに扱き下ろすことになるので、ファンは回れ右。作画ダメ、脚本ダメ、声優ダメの本作じゃこれ以外の点数は考えられない

両作は共に主人公である暦の一生を描いているが、「僕が~」は両親の離婚後、母に引き取られたケース、「君を~」は父に引き取られたケースで両者には関連性がある。両方観ることでお互い補完しあって見えてくるものがあるらしいのだが、当方には不協和音しか聞こえてこなかった

両方観ての率直な感想は「一作に纏めろ」。両者に共通するシーンがあるのは当然だと思うが、まさかの完全使い回し。同じように見えても微妙に違っていたり、異なる視点からの映像にするのが筋だと思うが。1作分のエネルギーで2作分の収入ってことだろうが、クオリティは2作で0.1作にも満たない

「僕が~」と「君を~」のどちらを先に観るかだが、どっちもゴミで片付けては身も蓋もないので一応触れておくと、ストーリー的には君、僕の順だろう。先に僕を見ると、映画の終盤はまだ見ぬ第1ヒロインの話になるので「は?」だろう。君が先だと暦の栞に対する思いが分かっているから唐突感は和らぐ

ただ、君が先だと僕の冒頭で長々と使い回しを見せられることになるのでその時点で観る気が失せるかも。それと君では両作の理解に必要な用語の説明があるのだが、台詞を読むだけで説明になっていない。原作未読勢で理解できる人はいるのかね。折角アニメ化したんだから、図や動画で説明するのが筋だと思うのだが

ダメ押しで話が薄っぺらい。100分足らずで人の一生を追おうとすると中身が薄くなるのは当然で、両作とも主に青年期にフォーカスした話になっているのは悪くないと思うが、使い回しの紙芝居に如何に上手く繋ぐかだけがミッションで、SFとしても恋愛ものとしても核がない感じ

次に作画。両作は「僕が~」はBAKKEN RECORD(タツノコプロ)、「君を~」はトムス・エンタテインメント(/第6スタジオ)と異なるアニメ制作会社が手掛けている。脚本家こそ共通だが、監督も両作で異なっている。これがどういう悲劇を引き起こすか、分かる人には分かるだろう

全体的に映画としては物足りないが、背景には違和感はない。知らない場所もあるが、元大分市民目線でここかって分かる。ただ、記憶とは若干違う所も。まあ、筆者が住んでいたのは大分駅が高架化される前だったので変わっていても不思議ではない

問題はキャラデザ。君を~の方は普通だが、僕が~は顎が『学園ハンサム』。栞は「僕が~」の世界から来たキャラに顎で刺殺されたんじゃないの。冗談はさておき、顎の長さがシフト量を表しているなら面白かったのだがそういうこともなし

最後に声優。例に漏れず似非声優を大量に起用しているが、主要役に限らず脇を固める筈の面々も中々の酷さ。全員纏めてぶった斬りにしたい衝動に駆られるが、脇役に厳しいことを言うのも違う気がするので主要役の青年期の声を担当した3人だけにしておく

和音役は橋本愛。声も演技もキャラに合っていて及第点。ただ、和音も『夏へのトンネル、さよならの出口』のあんず同様、ツンデレキャラだと思われるので、デレの演技もして欲しかった。まあ、”学芸会級”声優揃いの本作で演技に要望を出せるだけでも素晴らしいと言える

で問題児2名だが、主人公の暦役は宮沢氷魚。本業の俳優業でも演技力に疑問符がつけられることが多い彼が、声優として素晴らしい演技をする訳もなく…。少年時代は少年役に定評のある田村睦心なので、田村睦心宮沢氷魚のスイッチは奈落の底に落とされたような絶望感を味わうことになる

栞役は蒔田彩珠。『神在月のこども』でも拙い演技を見せていたが、演技力に進境は見られず。『神在月~』と違ってキャラに声が合っているし、周りも”学芸会級”声優なのでマシに思えるだけ。2度めでこの演技では声優の資質はないだろう。大物監督の映画にも出演しているし、女優業に専念して欲しい

 

かがみの孤城 2.3
わりと高評価が目立つ本作だが、辻村深月原作映画は「朝が来る」は良かったものの「ハケンアニメ!」はイマイチ。原恵一監督作品も「バースデー・ワンダーランド」がイマイチで正直不安しか無いが、果たして

感想を一言で言えば、「もう少し何とかならなかったか」が正直な所。原作は悪くないんだろうが、盛り上がらんのよねえ

本作の良い所は不登校の問題に対して原則論を振り翳さない所。この手の問題を扱うと、「義務教育なんだから行くのが当たり前。フリースクールみたいな逃げはいらない」的な考えを持つ人は未だに少なからずいる筈で、そういう人に配慮してなのか結論を暈しがち

フリースクールは勿論、転校、留学、学校に配慮を求める等、現実な選択肢を提示し、それぞれが適切な道を選ぶ様は、同様の問題で悩む親子に勇気を与えると思う

ただ、本作で褒められるのはこれだけ。2時間弱の作品なので各々のエピソードを掘り下げるには時間が足らないと思うし、子供が興味を惹く内容として謎解きを含むファンタジー要素をメインに据えたのは悪いとは思わない

しかし、その謎解きがねえ…。徐々に事実が分かっていくのは悪くないが、”ヒント”過多で答えが先に解ってしまい、それがダラダラ感に繋がっている。答えが分かってもアニメ的に盛り上がるならいいと思うが、残念ながらそうではない。謎解きについては別記事に纏めたので、興味があれば

作画は全体的には普通と言いたい所だが、見せ場である筈のシーンの作画が頂けないのは凄く印象が悪い。ガラスが割れる所とか光っている部分を通り抜ける所とかリアリティに欠けるシーンが続く。まあ、この後の紙芝居で光っている部分の面積は関係ないって分かるのだが

ここから◯◯に会いに行くまでが本作のファンタジーとしての見せ場で作画も頑張らなければいけない筈だが、迫力に欠ける。城自体がショボいのも原因かも知れないが、城がショボいのは”ヒント”になっているのかも

キャラデザは悪くないし、各々が色んな服を着ているのはらしさの表現としていいと思う。服装には重要なヒントも隠されているので、よく観ておいた方がいい

キャストについては例に漏れず似非声優多数起用なのだが、本作が最悪なのはメインの7人が似非声優と本職声優のブレンドになっていること。正直、物凄く違和感がある

マサムネ役の高山みなみは全体に合わせたのか抑えた演技で好印象だが、あの台詞…。問題なのは、ウレシノ役の梶裕貴。お前が目立ってどうすんだって感じ。そもそも素人と混ぜようとするのが最大の問題ではあるが、花江夏樹とか癖の強いタイプは絶対に合わない。当に”混ぜるな危険”

他の5人の内、アキ役の吉柳咲良とリオン役の北村匠海は及第点。フウカとスバルにはお情けで目を瞑るにしても、こころは主人公で明らかに出番が多いのにこれではねえ。オーディションは何を基準にしたのかと言いたくなる。声が合っているだけマシだが、アキ位の演技は見せて欲しかった

あと、他の人のレビューを見るとオオカミさま役の芦田愛菜が話題になっているが絶妙なキャスティングだと思う。オオカミさまを芦田愛菜が演じていること自体がかなりのヒントだもんなあ。過去に声優の経験も多いから、演技も問題はないし

ついでに劇伴や主題歌もイマイチ。曲自体にインパクトがないのもあるが、変なタイミングでかかったりするし曲調も場面に合っていない。恋愛要素が無い訳ではないが、主題歌も本作の世界観にマッチしていない。効果音も上手く使えているとは言えないし、トロイメライ以外の曲の印象が全くない

ぶっちゃけ大人が観るには物足りない作品だと思うが、小学校5,6年生~高校生辺りの人が見るんだったらキャラに共感できるだろうし、やり過ぎと思える超親切な謎解きも丁度いいのかも知れない