2022年に視聴した映画短評(その17)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・犬王 3.5
古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を湯浅政明監督でアニメ化した作品。湯浅監督はかなり大胆なアレンジをするので、当たり外れがハッキリしている印象。果たして、本作は如何に?

解説を見るとミュージカルアニメと書いてあるが、ミュージカルと言うよりはアニメ版「ボヘミアン・ラプソディ」って感じ。ロック調の曲も多く、クイーンのあの曲を思い出させるものもアリ。犬王が体の一部を取り戻していくのは、「どろろ」の百鬼丸にオーバーラップする

序盤こそストーリーを追っていくが、ぶっちゃけ中盤以降はライブアニメ。友魚が奏でる琵琶と犬王が舞う能はまるで対バンバトルのよう。ただ、ロックの割にテンポが遅いのでノリ切れない感がある。テンポを上げると歌詞が聞き取りにくくなるからなんだろうけど

犬王は実在した人物だが、友魚はオリジナルキャラ。今年、フジテレビ系列で放映された「平家物語」でも「びわ」というオリジナルキャラを使っていたが、語り部となる琵琶法師を登場させた方が脚本が書きやすいのかね。「平家物語」も本作と同じサイエンスSARU制作だし接点があるのかね

声優は似非声優多数だが正直微妙。威厳が感じられなかったりしてイメージに合わない。主役のアヴちゃんと森山未來もうーんって感じだが、歌に期待しての起用なんだろうな。アヴちゃんは本業だが、森山未來はミュージカルにも出演しているだけのことはある

原作が短めな上に犬王の呪いについての詳しい話はカットしたようで、所謂「感じる」タイプの作品だろう。ロック等今風のアレンジを斬新と取るか陳腐と取るか、作画も癖があるし残虐シーンもあるので評価がかなり割れているのも納得。刺さる人には無茶苦茶刺さる作品だと思う

 

・映画 ゆるキャン△ 2.7
既にアニメ2期、ドラマ2期が放送されているあfろの人気作品。原作ではなでしこ達は高校生だが、本作では高校を卒業して社会人になってのエピソードを描いている

社会人になった姿なんて見たくないという声もあるが、個人的には寧ろ社会人になっての話にしたのは大正解だと思う。某鬼滅みたいに原作の一部を映画にして、それをTVシリーズ用に再編集よりは遥かにマシ。映画は映画の方がいいと思うけどね

それと内容がないという指摘もあるが、ゆるキャン△はそういう系統の作品じゃないでしょ。プロットは極めてシンプルだが、ちゃんとストーリー的にタメがあるし脚本はそこまでダメってことはないと思う

ただ、タメが長すぎると言うか中途半端と言うか。社会人になったことを意識しすぎな気がする。映画の尺じゃ緻密な話は描けないし、本作に求められているのは大人の事情を描くことではないだろう。そもそも仕事をしていて山梨との往復で片付くような規模の話ではないし

遺跡発掘云々はタメを作るためのエッセンス程度にしておいて、もっとシンプルに社会人になって疎遠になっていたなでしこ達が力を合わせて頑張る姿をメインに描いた方がゆるキャン△らしくて良かったと思う。まあ、2期を見る限り、原作でもキャンプ要素は薄くなっているんだろうけど

原作、アニメ、ドラマ、全て見ていない人のレビューもあったが、未視聴組が見ても面白くないと思う。昔の話にオーバーラップさせるシーンが多いので、まずはどれか1つに接触して興味が持てたら本作を見ることをオススメする

 

ハケンアニメ! 1.2
SNSで話題になった作品だけど、なんか嫌な予感がして劇場での視聴は見送ったが正解だった。ゴミとまでは言わないが、「これだから邦画は…」と言いたくなるような作品

何を伝えたいのか伝わらない作品。(一部の)ツールは令和、中身は昭和で違和感がありすぎる。舞台は日本だし、未だに根性論とか浪花節が罷り通るのは事実だが、そこを強調するとアニメ業界じゃなくても通じる話。それとアニメのデジタル化についていけてない。今時、手書きの絵コンテ連発するかね

また覇権に対してまともに向き合っていないように感じる。内容より数字(視聴率)と言っておきながら、(数字より)後世に残る作品をと言ってみたり。理想と現実のせめぎ合いはアニメに限った話ではないしそれを描きたいのは理解できるが、何か中途半端なんだよなあ

もっと分かりやすい構図にすればいいのに。徹底的に拘る天才vs周りに担がれる凡才。作中では起用されたアイドルが努力している姿が描かれているが、「どうせ客寄せパンダなんだし」とヘラヘラしてたら面白いのに

映像には拘るが、内容は無いよう。「来来来世」とかノリのいい音楽を流しておけばヒット間違いなし。それが拘りに負ければ伝わる作品になると思うが、○○や○○○を揶揄していると思われるのは確実だから、そんな作品を作る勇気はないだろうけどね

正直、原作をリスペクトし過ぎ。原作が群像劇だから仕方ないところもあるが、もっと取捨選択しないと。登場人物の過去の仕事ぶりとかがカットされているのも話に入れない要因になっている。更に肝心なことが描けてない割に本題に入るのが遅いから、テンポが悪く感じる

劇中アニメは劇中アニメとは思えないほどのクオリティなので、もっと見たかった。視聴者の反応にも触れられているが、この短時間じゃ説得力が。ただでさえ詰め込みすぎてダイジェスト感が強いのに、これ以上アニメに尺を割けないってことだろうけど

キャストは悪くないし、松岡修造ノリが好きな人には受けるのかも知れないが、そもそも多様化の時代に覇権とか時代錯誤だし、このタイミングで制作するのならもっと時代に合わせるか、視聴率争いが現実だった昭和設定にするかだったと思う

 

・余命10年 1.3
薄命のヒロインもの且つ年数カウントダウンもの。前者は泣かせることに神経が行き過ぎて陳腐な印象になりがちだし、後者は年数を追うとメリハリがつけにくくなり散漫になりがち。普段なら絶対見ないが、藤井道人監督作品だしアマプラで無料ならいいかなと

ヒロインの小松菜奈を含め演技は悪くないと思うし、泣かせる仕掛けが上手く取り込まれていて「泣かせる映画」としては良く出来ているのだろうな。なんちゃらガーデンで号泣って人ならブラボーって感じなんだろうけど、ひねくれたおっさんはこんなんじゃ泣けん

泣ける泣けないはともかく、まず中途半端。闘病生活なのか恋愛なのか、どちらに重きをおいているのか。次にテンポが悪い。闘病生活メインにしても恋愛は描くことになると思うが、付き合うまで遅すぎるでしょ。あと、この内容なら90-100分程度で纏めて欲しかった

一番ダメだと思ったのは、二人が恋に落ちるとはとても思えないこと。同窓会が契機はありがちな話だし、和人が学生時代から茉莉に好意を寄せていたのは分かるのだが、明らかに目立たないタイプで積極的とは言えないのは今も同じ

茉莉もかなりクールな印象で、とてもダメンズ好きとは思えないしね。増しては、恋愛なんてしないって決めてるんだし。そんな二人が深い仲になるにはトリガーが必要だと思うが、何がトリガーなのか全く想像できない

まあ、闘病生活がメインならいいと思うが、肝心の闘病生活についても病名こそわかっているものの、病気について掘り下げることはないし、長期に渡ったであろう入院生活も殆どカットだしね

藤井道人という看板があっても好きにはできないんだろう。興行収入的には大成功なんだろうけど、世の中には「邦画なんてつまらないから見ない」って人も多い訳で、その人達が本作を見て良い映画だと評価するとはとても思えない。量産型の集大成みたいな作品じゃなくて、もっと攻めた作品を観たかった

 

・ちょっと思い出しただけ 3.2
6年間のある日を追う定点観測☓ラブストーリー。恋愛モノはあまり好きではないが、監督が松居大悟だしアマプラで見られるので視聴

ぶっちゃけ、ストーリーは普通。池松壮亮伊藤沙莉も誰もが羨む美男美女カップルではなく、其処いらにいそうなバカップルって感じだし

本作の肝は定点観測のやり方で、「メメント」のように時を遡っていく。これによって、ストーリーに伏線回収の楽しさが加わっている。ただ、中盤までが少し長く感じた。十分な伏線を張ると共に、仕掛けに気付いて貰うためだろうけど

しかし、下手すると時を遡っているのに気付かない人もいるかも。日付と曜日は映るけど、年は映らないからねえ。同じ日付なのに曜日が違う(365=52x7+1なので、閏年以外は1日ずれる)のに気付けるかどうか。マスクもコロナ禍を絡めたいんじゃなくて、時を遡っていることを示唆する演出だろう

ラブラブシーンはそれほど多くなく、タイトル通りあっさり風味。仕掛けを楽しむ作品で恋愛映画が好きな人には物足りないかも。逆に美男美女の現実離れした恋愛なんて見たくないって人には楽しめる作品だと思う