2024年に視聴した映画短評(その3)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

 

・キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 0.3
原作はデビッド・グランのノンフィクション作品『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』。マーティン・スコセッシ監督作品と言えば上映時間が長いことで有名だが、本作も例外にあらず

本作の感想を一言で言えば”如何にも賞狙いの凡庸で退屈な作品”。実際、アカデミー賞では作品賞をはじめ10部門でノミネートされたが、受賞は0。上映時間がクソ長い以外に際立ったところがないから受賞0は当然の結果だろう

ぶっちゃけありきたりな西部劇。2時間あれば十分な内容。『オッペンハイマー』といいアメリカの過去に疑問符を投げかける作品がノミネートされているのは2025年から適用されるであろう”多様性ルール”を先取りした結果なのだろう

映像的には特に見どころなし。西部劇だしね。ちゃんとお金をかけているのは分かるけど。日中のシーンもあるが、夜のシーンもそれなりにあるし室内は暗いので、ダラダラして盛り上がりのない展開と合わせて眠りへと誘われる

キャストでは”キング”役のロバート・デ・ニーロは流石の演技。追求されるとキレて恫喝する爺さんの姿は◯生や◯階を彷彿とさせる。アーネストの妻モリーを演じたリリー・グラッドストーンも良かったと思う。レオナルド・ディカプリオは微妙。小物感は出ていたと思うけど、やっぱりスターオーラを消しきれないと言うか。適役ではないと思う

しかし、レビューがヤバいことになってるな。まあ、3時間20分の映画を見る人なんて映画関係者とスコセッシのファンが殆どだろうからこうなるんだろうけど、客観的に見て称賛で溢れるような作品とは思えないんだが。信者が必死なのは◯◯の◯◯映画に似た気持ち悪さを感じる

P.S. あまりに長い本作。上映途中に休憩を挟む映画館が続出したら、パラマウントAppleは「変更や休憩なしで上映する」という契約に違反するとして厳しく取り締まったらしい。バカじゃないの。インド映画は逆にインターミッション前提で作られている作品が多いが、無しで上映してクレームがついたなんて聞いたことないけどね。アメリカを支配する多様性が商業主義によって歪められた紛い物であることを示すエピソードの一つだろう

 

・マエストロ:その音楽と愛と 1.0
エストロ=レナード・バーンスタインのこと。邦題は『マエストロ:その音楽と愛と』だが『レニー:煙草と両刀使いの人生』の方が良かったかもね。音楽家バーンスタインの曲作りとか音楽に対する姿勢を掘り下げる内容を期待するなら見ない方がいい

バーンスタインの偉大なところは作曲家としても指揮者としても成功したと言えること。演奏家兼指揮者はそれなりにいる(アシュケナージとか宮本文昭とか)が現実的には演奏家から指揮者にシフトしたが正しいと思う。化学者兼作曲家のボロディンって変わり種もいるが

大谷翔平の”二刀流”が話題になったが、どの世界でも”二刀流”は大変なこと。ニューヨーク・フィルの常任指揮者を辞任したのは作曲の時間を取るためだし、弟子が多いのも(作曲の時間を取るために)自身の代理を務められる指揮者の育成が必要だったのがきっかけ。弟子には小澤征爾佐渡裕アバドなど有名な指揮者も多い。去年のアカデミー作品賞にノミネートされた『TAR/ター』のリディア・ター(架空の人物)もバーンスタインの弟子という設定だった筈

本作の感想を一言で言えば「賞狙いが鼻につく」。”搦手”で来たのは、普通の伝記作品ではアカデミー賞は狙えない(ドキュメンタリー賞はあるが)からでしょ。アカデミー賞では作品賞など7部門でノミネートされたが、受賞は0。まあ、『ボヘミアン・ラプソディ』にはしたくない矜持もあるだろうが、『ボヘミアン~』は既にクイーンの伝記作品があったから捻らざるを得ないのは当然だし、『オッペンハイマー』は(量子)物理学者の研究内容(論文)を掘り下げてもついてこれる人は殆どいないだろうからねえ

ゆりかごから墓場までではないもののデビューしたての頃から晩年までを網羅している上に妻のフェリシアや家族と過ごすシーンが多く、それ故各シーンが唐突で細切れなので話に入っていけない。撮影を無駄に凝っているのも細切れ感が増すばかりで逆効果。山場がない訳じゃないが、伝記映画ではないので唐突にそのシーンが来て映画的な盛り上がりには欠ける。作品は白黒とカラーで構成されていて、内容的な章立てと大まかな時代を示唆しているのだろうが、何年とか一切出ないのでいつだか分からない

映画マニアや信者、映画関係者は置いておくとして、本作は非常に不親切なのでクラシックとバーンスタインについての知識があることが大前提。その上で(音楽家じゃない)人間バーンスタインに興味がある人向けだろう。それ以外の人、特にクラシックなんて全く知らんって人が観てもヘビースモーカーな上に(妻がいるのに)バイセクシャルでお盛んなおっさんに不快度MAXだろうし、フェリシアもそこまで好感度は高くないし、勿論曲も知らないだろうから不満しか溜まらないと思う

ぶっちゃけ映画としては0点だが、指揮者バーンスタインと作曲家バーンスタインを味わえるシーンは用意されているのでそれぞれ+0.5点で1点にする

 

・雪山の絆 3.3
『インポッシブル』『ジュラシック・ワールド 炎の王国』等で知られるJ・A・バヨナ監督の作品。『インポッシブル』は2004年のスマトラ島沖地震で離れ離れになった家族の実話を元にしているが、本作は1972年のウルグアイ空軍機571便遭難事故が題材で、事故機に乗っていたラグビー選手達と同じ学校に通っていた作家のパブロ・ビエルチが生存者16人全員の証言を記録し、事故から36年後に発表した同名の著書が原作になっている。アカデミー賞で国際長編映画賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の2部門でノミネートされたが受賞はならず

同事故を題材にした映画は多数作られていて、有名どころでは1974年にピアズ・ポール・リードによって書かれた『生存者―アンデス山中の70日』を原作にした1993年にイーサン・ホーク主演で映画化された『生きてこそ』。『生きてこそ』は実在しない人物が登場したり、過激なシーンにはエンタメ上の配慮があったようだが、本作ではキャストはウルグアイとアルゼンチンの俳優だし、痩せ細った様子やカニバリズム(食人)をもろに想起させるシーンがあるなどリアル路線

極限下での心理描写も見どころではあるが、人肉食に至るまでの葛藤や論争の描写は控えめ。人肉食を描くのが目的ではないだろうし、72日間にも及んだサバイバル生活の一部に過ぎないし、原作が生存者全員の証言を元にしている以上死者を含めて誰かを悪者にするつもりもないだろう。食人行為の是非について当時激しい論争になったことは想像に難くないし、それによって心に傷を負った生存者もいることだろう

難点はやはり現実の事故を題材にしているだけに予想外の展開にはならない上に前述のようにこの事故を題材にした映画が多いだけでなく、この事故に触発されて作られた話もあるので新鮮味に欠ける。とは言え、クソ長いエンドロールが示すように多くの人が関わった超大作。一度は視聴して損はない作品だろう

P.S. トンチンカンなことを書いている人がいたので補足しておくと、まず南半球なので季節が北半球とは逆。事故が10月で生還したのが12月だと日本の感覚では秋から冬になるので秋のうちに何とかしておけばになるが、南半球では春から夏になる。冬山登山の装備がないのに登山なんて死にに行くようなもの。富士山だって入山できるのは夏の僅かな期間だけだしね。夏を待っての勝負は賢明な判断でしょ

 

・PERFECT DAYS 2.5
ヴィム・ヴェンダース監督作品。ドイツ人の監督だが、本作の舞台は東京

本作を観たら誰もが気になるであろう”The Tokyo Toilet”の文字。TTTプロジェクトとも呼ばれ、誰もが快適に使える公衆便所を目指して2020-2023にかけて渋谷区内の17箇所に内外のクリエイター16人がデザインした”デザイナーズトイレ”が設置された。プロジェクトを実施したのは日本財団だが、2023年に渋谷区に譲渡され今後の管理は渋谷区が行う予定になっている

日本財団と言われてもピンとこない人が多いだろうが、2011年3月までの名称は日本船舶振興会。若い人は知らないだろうが、高見山(東関親方)やCMソングの作曲を担当した山本直純が出演した「♪戸締まり用心 火の用心」で始まるCM(火の用心のうた)は有名。このCMは月曜日から日曜日までの各曜日バージョンがある位かなりの頻度で流された。1962年に笹川良一(CM内で子供たちと一緒に一日一善と言っている爺さん)によって創立された同団体だが、現在の総資産額は3,000億円と言われる日本最大級の財団である

製作の柳井康治はユニクロジーユーで有名なファーストリテイリングのドンである柳井正の息子でファーストリテイリング取締役。(共同)脚本の高崎卓馬はdentsu Japanのグロース・オフィサー。色々手掛けているようだが、映画の脚本は過去に『ホノカアボーイ』で担当したことがあるものの実績には乏しい

別に誰が関わろうが素晴らしい映画ならそれでいいじゃないかと言われそうだが、日本財団xファーストリテイリングx電通の勝ち組コラボから弱者を慮る作品が生まれるわけがないことは知っておくべき。本作の主人公である平山は古そうなアパート暮らしで質素な生活ではあるものの、結構な頻度で飲みに行っている訳だし生活に困窮している訳ではないと思う

平山の職業は”デザイナーズトイレ”の清掃員。平日だけでなく休日もルーティーンに基づく行動が多いが、無趣味な訳ではなく一人暮らしをエンジョイしている昭和気質な自由人の印象。そんな平山の生活を”定点観測”することで毎日同じように見えても違う所もあること、ちょっとした出来事によって平山の嗜好や過去が明らかになっていくのは面白い。上映時間が2時間程度なので、テンポも悪くはない

とは言え、平山の過去が全て明らかになる訳ではないし、便所掃除が取り持つ縁が平山を含め人それぞれの生き方があることを浮き彫りにするだけで大きな展開がある訳ではない

それに色々雑なところが目に付く。流石にゴミを素手で拾いはしないと思うし、いくら自転車でも飲酒運転はなあ。普通にアウトだし。昭和気質の平山がハグするのも違和感があるし、外国人が少ないのも違和感が。渋谷も(平山が住む)浅草も外国人だらけでしょ。外国人は観光名所だけでなく、裏通りにも普通にいるしね

ぶっちゃけ役所広司だから成り立っている作品。寡黙な人物の設定で、後半はともかく、前半は殆ど喋らないからなあ。冒頭から全然喋らないから、まさかこのまま一言も発しないのかと思ってしまった。台詞はなくとも存在感を示せる役所広司は本当に素晴らしい

本作はアカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされたが受賞はならず。審査員が好きそうな作品ではあるけど。ただ、今年は『オッペンハイマー』や『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』等、過去の国の政策の過ちに目を向ける作品が多く選ばれていて、国際長編映画賞を受賞した『関心領域』もアウシュビッツを題材にした作品。平山も過去に家族と一悶着あってそれを悔いている様子ではあるが、何があったのかは描かれないし、アウシュビッツに比べたら些細なことだ

 

・パスト ライブス/再会 2.8
韓国映画はそれなりに観るが、殆どがアクションやドキュメンタリーでヒューマンドラマは退屈な作品が多い印象。ラブストーリーは邦画であっても殆ど観ないが、A24ならば尖った作品に期待できるかなと思ったが…

悪くはない。上映時間が示すようにコンパクトにそつなく纏めた印象。劇伴や映像はおしゃれで静かな大人の恋愛って感じ。ただ、初恋の人に会いに行くのも異なる文化の対比についても珍しい話ではないし、本作はシンプルなユニバーサルデザインのような作品でゴージャスなステンドグラスのような作品の多いアカデミー賞とは対極にあると思われるのに何故ノミネートされたのか謎だ。まあ、本作も”多様性”に触れた作品であるし、勢いのあるA24作品だからかね

韓国って儒教文化と欧米文化が対立する形で共存しているところがある。女性が男性より下に見られがちだし、作中でもあるように長男だから云々も未だに残っている。日本でもとうの昔に廃止された筈の家制度の影響で同じような考えの人はいるだろうが、少なくとも大都市圏では長男だからは通用しないでしょ。家督制度がないのに義務だけは果たせとか時代錯誤も甚だしいわな

反面、韓国人は上昇志向が強い。変われない国だからなのか海外移住に抵抗がないし、ビジネスの為なら外国語の学習も厭わない。韓国に限らず台湾も欧米風のビジネスネームを使う人が多いし、転職は当たり前、キャリアアップを実現するためには”踏み台”にしたところでどうこう言われない筈。一方、日本では外国人選手はともかく日本人選手が入団会見で「日本のプロ野球MLB移籍の通過点だと考えている」などと発言しようものなら大炎上でしょ

本作を観る人の大半は恋愛映画が好きな人だと思うが、恋愛映画が好きな人は人物への好感度が作品の善し悪しに直結する人が多い印象。韓国に残ったヘソンについてはともかく、海外に移住したノラについては反感を持つ人が殆どだろうから、作品の評価は上がらないし大ヒットは望み薄だろう。最近は浮世離れした作品は少ないとは言え、あまりにドライでサバサバしているのも恋愛映画好きには不満だろうし。役者の演技は悪くないし、あまり恋愛作品を観ない人がたまに観る作品としてはいいかも。ただ、2,000円の価値はないので、せいぜいサービスデー、レンタルや配信待ちでも十分だろう