2022年に視聴した映画短評(その19)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・ブルーサーマル 1.7
小沢かなの漫画が原作。心得がある人ならタイトルでピンとくると思うが、(大学の)航空部を舞台にした作品。監督がプリンセス・プリンシパル橘正紀なので期待したいところだが、脚本が「脚本界(?)の山○○人」こと高橋ナツコ女史なのは不安材料

ぶっちゃけ褒められるのは序盤だけ。多少強引な展開ではあるが、部活モノならこんなものだろう。たまきがグライダーに惹きつけられていく様子がストーリーだけでなく映像からも伝わってくる。ただ、高橋ナツコが牙を剥くのはこれから

原作は単行本5巻+αで、しかも打ち切り漫画。後半はかなりの巻きで進行しているようで、少なくとも実質7-8巻分のボリュームはあるだろう。それを100分程度に纏めるのは明らかに無理があるのだが、それにしてもねえ…

単にエピソードの中の印象に残るシーンだけを抜き出して切り貼りしただけ。途中の話は勿論、人物の掘り下げが皆無なので、終始唐突な感じでTVシリーズのダイジェストを見ているように思える。まあ、ダラダラして話が進まないよりはマシだろうが

無理に全てを映画化する必要はないでしょ。特に最後は得意のナツコオリジナル展開みたいだし。高橋ナツコではあまり仕事が来ないから高橋イタコに改名する気なのだろうか

作画は可もなく不可もなくってところか。正直、最近のアニメ映画のクオリティからすると見劣りする。ただ、作画のクオリティよりグライダー競技の魅力を表現できていないのが問題。ルールもよく分からんし、台詞による現状説明で状況を把握せざるを得ないのはダメなスポーツアニメの典型

声優は殆どプロだが、主人公のたまきは堀田真由。他にムスカの人とかも出ている。演技は及第点以上だし好印象だが、プロだと水瀬いのりがやりそうな役でその方が説得力があったかも。本作はしょうもない理由で主人公に悪態をつくキャラが多いが、甲高い声だと屁理屈も多少は理解できるかも

素材は悪くないので、新人戦位までをもっとじっくりと映画化すれば良かったと思うが、それよりは打ち切りENDで描けなかった話を補完してTVシリーズでやって欲しい。勿論、脚本家は交代で。さよなら私のクラマーを見る限りスポーツものも得意ではなさそうだしね

P.S. 151cm50kgでデブなんかね。運動とは無縁だと多少ふっくらして見えるのかも知れないが、体育会系女子ならこんなものだと思うけど

 

・鹿の王 ユナと約束の旅 0.5
原作未読だが壮大なファンタジーであることは知っていたし、”映像化不可能”とも言われているらしく世界観をどう表現するのかが難しい作品なのだろう。そんな原作をアニメ映画の尺で表現しようとしたら、お粗末なデキになることは容易に想像できるのだが…

何がダメと一言で言うなら、本作を見ても原作の良さが全く伝わらないこと。上橋菜穂子と言えば「精霊の守り人」「獣の奏者(エリン)」が既にアニメ化されていて、「鹿の王」も凡庸な作品とは思えないのだが。まあ、上述のように原作未読なので断言はできないが

長編の割にはストーリーはシンプルのようだが、とは言えこの尺では説明不足なのは否めない。それなのに、やたら自然と戯れるシーンを強調して話が進まない。あまり台詞で説明したくないのだろうが、おかげで余計に本作の良さが伝わらず、薄っぺらい印象になってしまった

新海作品等にも見られるが、とにかく要素の噛み合わせが悪い。リアルとファンタジーもそうだが、リアルについても勢力争いと治療の話がバラバラに進行している感じ。余り関係ないのなら、どちらかをメインに据えるべきだったと思う

作画は(硬派な)攻殻機動隊シリーズで知られるProduction I.Gだが、スタッフにジブリ関係者が多いこともあってジブリっぽい柔らかい感じ。ただ、そのせいで劣化ジブリの印象が強くなっている

声優は例によって似非声優。悪くはないが、本職と比べると滑舌が悪くて聞き取りにくい。鬼滅がヒットしてパンダは必要ないって証明した筈なんだけど、悪しき習慣は簡単には変わらないのだろう

本作はコロナ禍を口実に2回も公開延期されているが、だったらもっとブラッシュアップできなかったものかね。難解な話は極力カットして、画もストーリーも(大ヒットした)「もののけ姫」、声優もパンダ起用でヒット間違いなしの皮算用だったようだが、興行収入は残念な結果に終わったようだ

P.S. だったらTVシリーズならどうかだが、原作の魅力は細かい描写らしい。人物描写はアニメより実写向けだと思うが、ファンタジーは実写だとかなり難しい。特に貧乏性の日本ではショボいものになるのがオチ。原作ファンからしてみれば、やはり映像化してはいけない作品ってことになりそうだ

 

・バイオレンスアクション 0.5
浅井蓮次と沢田新によるコミックの映画化だが、主演は最早”B級映画請負人”橋本環奈。普段はゆるいのに裏の顔はシビアな殺し屋稼業と言えば「ベイビーわるきゅーれ」を思い出すが、当に月とスッポンだ

アクションシーンは見るに堪えない。カット&エフェクトで誤魔化す気しかない感じで動きは極めて単調。殆どアクションしていないんだろうな。アクションと名乗るなら、せめてジェシカ・チャステイン位にはやって欲しいものだが

じゃあ、コメディとしてはと言われると…。岡村隆史はいいアクセントになっているが、佐藤二朗は相変わらず滑っているしねえ…。これと言って見せ場なし

ストーリーはごくありきたりなヤクザもの。映画の尺では仕方ないかも知れないが、主人公のケイすら禄に掘り下げないので感情移入のしようがない。アクションのショボさと相まって何となく話が終わっちゃったって感じ

キャストは無駄に豪華だが、ハッキリ言ってそれだけ。あと、らーめんTシャツになりたいw。しかし、橋本環奈はおこちゃまに見えるな。赤髪だし、ポスター見て一瞬SPY×FAMILYかと思った

 

神々の山嶺 2.5
夢枕獏の小説を谷口ジローがコミカライズした作品「神々の山嶺」がフランスでアニメ映画化。日本では「エヴェレスト 神々の山嶺」のタイトルで2016年に実写映画化されている

小説も漫画も実写映画も見ていないので比較はできないが、正直薄い。全5巻の漫画のアニメ映画化なのでバッサリいかないとどうしようもないのだが、羽生も深町も描写が中途半端な感じ。まあ、羽生のミステリアスでストイックな所は伝わるが、それでも感情移入はしにくい

あと、人が死にすぎ。原作がそうなんだろうが、火曜サスペンス劇場じゃないんだから。下山家と揶揄された登山家でさえも山で絶命したように雪山が危険なのは分かるが、山で死ねたら本望と言うのは理解し難い。死ぬ時は腹上死みたいなものかと言ったらアルピニストに怒られるか

画のタッチは如何にも海外映画って感じ。最近はCGが多い中、本作は手書き。最近の写真のような美しい画とは明らかに異なる。雪山の描写は素晴らしく、風景の美しさもさることながら、アタック中の緊迫感と迫力が伝わってくる

反面、街中の描写はイマイチ。本作は1990年代前半の設定だと思われるが、雰囲気から受けるイメージは昭和。だから、ネカフェがあったりする今風の街並みに違和感がある。それと瞳が皆つぶらで人物の区別がつかない。フランス人から見た日本人は皆そう見えるのだろうか

原作に対するリスペクトは感じるが、作品の出来自体は普通。アマプラで視聴しての感想だが、映画館で見るほどではないと思った。まあ、原作を知っていれば違った感想になるのかも知れないが

 

・エルヴィス 1.0
アカデミー作品賞にノミネートされたのでレビューにするが、ぶっちゃけ駄作。まあ、ノミネートされる作品の半分位はゴミなのが通例だと思うが

まず、タイトルに偽りあり。本作をプレスリーの伝記映画だと思ってみるとガッカリする。本作の主役はトム・ハンクス演じるマネージャーのパーカー大佐。語り部もパーカーだし、とにかくパーカーの存在感が半端ない

オースティン・バトラー演じるエルヴィスは悪くはないが、パーカーに対して脇役にしか見えない。更に、当時のエルヴィスの映像が挿入されるから余計に存在感が薄い。やっぱり本家には勝てないし、バトラーのエルヴィスがパチもんにしか見えない

上映時間は2時間40分ほどだが、正直長過ぎる。歌唱シーンをじっくり見せてくれるならいいが、ぶった切ってパーカーの語りを被せるし。オースティン・バトラーとトム・ハンクスでは格が違うのは確かだろうが、そこまでトム・ハンクスに忖度する必要なんてあるのかね

変わった目線、歌唱はおまけならドキュメンタリーとして作れば良かったと思うが、金になりそうな題材をドキュメンタリーにするんじゃ賞にも商売にもならないってことだろうな。作品賞ノミネートでリバイバル上映する所もあるだろうが、金だして見る程の作品じゃないんで他の作品の視聴をお勧めする