2023年に視聴した映画短評(その5)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

 

・バイオレント・ナイト 2.0
「ブレット・トレイン」「Mr.ノーバディ」好きは観てって同作で製作を(「ブレット・トレイン」では監督も)担当したデビッド・リーチ繋がりってことなのだろうが、正直イマイチな出来

一言で言えば、何が売りなのかがハッキリしない作品。サンタは戦闘力ゼロ(?)にしては強すぎるし、と言ってアクションを売りにできる程ではないし。まあ、秘めたる戦闘力の秘密は作中で明かされるが

ストーリー的にもそこまでぶっ飛んでる訳じゃないしねえ。前半はきちんと伏線も回収しつつ、殺生もアクシデントって感じだが、後半は無駄な殺しやグロシーンが多くて何だかなあって感じ。オチを含めて、特に後半は好き嫌いが分かれるだろう

 

・妖怪の孫 2.5
「パンケーキを毒見する」の内山雄人監督による政治ドキュメンタリー第2弾。パンケーキ~は菅義偉に迫ったものだったが、本作のターゲットは安倍晋三。妖怪とは「昭和の妖怪」と呼ばれた母方の祖父である岸信介のことで、安倍晋三岸信介の孫にあたる

パンケーキ~に比べれば纏まりがあるとは思うが、もっとフォーカスを絞った方が良かった。安倍と岸を比較するパートもあるが、「2887」みたいに安倍の政策をいくつかピックアップして、それらについて安倍と岸に共通する所とそうでない所を纏めた方がタイトルに相応しかったと思う

前作同様複数のパートから成っており、各パートの間にアニメが挟まるがデキはイマイチ。諭すような内容で前作みたいに皮肉が利いていない。ネトウヨにも観て貰いたいのだろうが、YouTubeでタダで日本礼賛動画を飽きるほど観られるのに態々金を払ってまで本作を見るとは思えないが

ネトウヨは置いておくにしても、本作がどういった客層をターゲットにしているのだろうと感じた。パンケーキ~はもっと政治をフランクに幅広い客層に観て欲しいというメッセージ性があったと思う

その一端が日本会議で、日本会議を知っている人はどれだけいるのだろうか。普段、政治に興味がない人ならまず分からないだろう。しかも日本会議について掘り下げる訳でもないし。旧統一教会とか自民党を取り巻く団体については別の作品でやるべきだっただろう

それと内容がいい加減。原発反対は結構だが、原発が利権塗れだから止められないのは本当なのか。太陽光発電も既に利権塗れで(原発同様)助成金を垂れ流すことになりそうだが、それについては何の問題もないのだろうか。まあ、本作を見るのは反安倍が殆どだろうから、それ以上ツッコむ人は皆無だろうが

ぶっちゃけ安倍に迫るんなら、何故安倍政権が長期政権になったのかに触れないと。作中で自民党のネット戦略について触れているが、それが長期政権の鍵かと言われるとねえ…

山口県第一の都市とは言え人口減少が著しい地元(下関)に利益誘導しているとも、旧統一教会についても朝鮮学校への支援打ち切り等必ずしも優遇しているとは言い難いのに何故彼らが支持し、選挙に勝ち続けたのか。それを分析すればネトウヨにとっても見応えのある作品だったと思うが

最後に少し位褒めておくと、パンケーキ~同様、普段政治ニュースをこまめにチェックしている人でも知らないような内容に触れていてちゃんと取材しているなとは思った。ただ、本作はそこまで反安倍色の強い内容ではないと思うが、それでもアベヲタがみたら発狂するかも知れないし見る価値は乏しいかも

 

・セールス・ガールの考現学 3.0
自身初のモンゴル映画視聴。アダルトショップの店員を描いた作品でセンシティブなシーンがあって当然、それをどう表現するのかに注目していた。アジア各国は規制が厳しい印象があるが…

ぶっちゃけエロシーンは少な目。ただ、使用するシーンを含めて大人のおもちゃなんかも出てくるので、家族連れで見るような映画ではない。まあ、本作を上映しているのはミニシアターなので家族連れでは行かないと思うが、全年齢向け作品なので一応触れておく

ストーリーは正直粗だらけ、そもそもギブスでも店番位出来そうだしね。大学には通っているのだし。犬に○○○○○を飲ませたりトンデモシーンも多いが、コメディとして中和している。ただ、ゲラゲラ笑うよりはシュールな笑いって感じ

モンゴルの人気シンガーソングライターであるMagnolianのヒット曲だけでなく懐かしの洋楽も使われている。本作のテーマは異世代交流だろうし、曲もそういう観点から選ばれたのだろう。ただ、若者が観るにしては本作のテンポは悪過ぎると言わざるをえない

カティア役のエンフトール・オィドブジャムツも貫禄があって良かったが、本作はサロール役のバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルの映画だろう。ジョゼ~に出ていた頃の池脇千鶴を思い出させる童顔だが、顔に反してグラマラスボディ

カディアと触れ合っていくうちに女としても大人になって垢抜けていく感じは役に嵌っている。本作が映画デビュー作らしいが、堂々とした演技で今後が楽しみだ

 

・不思議の国の数学者 3.8
数学者でもあったルイス・キャロルの生涯についての著書とは無関係。原題はIn Our Primeだしね。ただ、如何にも原作がありそうな話の完成度の高さ。悪く言えば、ありきたりな韓国映画っぽい脚本とも言えるが

テーマ的に数学は避けて通れず、当然数学のトピックスは出てくる。ぶっちゃけ数学はおまけみたいなもので深く掘り下げる訳ではないが、ネイピア数とかオイラーの公式とか高校数学レベルの知識はあるに越したことはないだろう。じゃないと数学をピアノで表現する糞映画って評価になりかねないし

キャストではチェ・ミンシクの存在感は確かで当にキム・ドンフィの父親って感じだが、チョ・ユンソがいい味を出している。脱北や苛烈な受験戦争等、韓国の問題を上手く取り込んで最後は感動シーンで纏めているのだが、やっぱり重い。バッド・ジーニアス的なノリで仕上げても面白かったかも

それと本作ではバッハの無伴奏チェロ組曲第1番が頻繁に流れるが、ハクソンが好きな曲という以上のエピソードがないのは残念な所。あとハクソンが数独をやっているシーンがあって、流石世界のSUDOKUって感じ

 

・聖地には蜘蛛が巣を張る 4.0
「ボーダー 二つの世界」のアリ・アッバシ監督作品。ボーダー~同様、ショッキングな映像と何とも言えぬ後味は健在だが、ボーダー~程のインパクトはない

Spider Killerと呼ばれたサイード・ハナイによる連続殺人事件をモチーフにしていて、原題のHoly Spiderもそれに因むものだろう

ストーリー的には犯人が捕まるまでだけではなく、捕まった後も描いていて二部構成のようになっている。視聴者には犯人が分かっているが捜査側には分かっていない古畑任三郎タイプの作品で、ミステリーではなく(クライム)サスペンス色が強い

正直ツッコミ所の多い作品で、シリアルキラー相手の危険な囮捜査もさることながら、お世辞にも劇場型犯罪指向で緻密とは思えない犯人を捕まえるのに何故手こずるのか。ハナイによる事件は2000-2001年にかけてのもので、今よりは技術は劣るだろうが科学捜査が普通になっていると思うのだが

しかし、本作はこういう異常な犯罪が罷り通る社会的背景の方に重きを置いていると思われ、性に関する意識や男女差別等の宗教的価値観や極度に世間体を気にする国民性、忖度は当たり前のパワハラ社会。日本にも共通する部分が多いと思う

ラストもここにこれを持ってきたかって感じで、ハッピーエンドや泣かせる話が好きな日本人には合わない作品だと思うが、個人的にはアッバシ監督の作風は好み。ただ、終始重苦しい雰囲気なので娯楽目的で観る作品ではないだろう