2023年に視聴した映画短評(その4)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0


・FALL/フォール 3.5
地上600mのTV塔に登って降りられなくなった女性2人が悪戦苦闘する様子を描いたワンシチュエーションもの。勿論、実際に600mまで登った訳では無いが、十分に「高さ」が感じられる風景はもし現実だったら○玉が縮こまる思いだろう。高所恐怖症の人にはきついかも

こんな鉛筆のような塔があるのかと思うが、サクラメント・ジョイント・ベンチャー・タワー(高さ625m)をモチーフにしているらしい。支線塔と呼ばれる塔で、斜張橋(横浜ベイブリッジ等)のように柱(塔)をワイヤー(支線)で支える構造

上映時間が短めなこともあってダラダラ感はない。TV塔に登り始めるまで早いしね。短い"準備期間"中は勿論、登り始めてからも張られている伏線を丁寧に回収していく意外(?)にも凝ったストーリー。ただ、ストーリーに拘ると突っ込み所も目立つのは確か

気付かねえのかよとか色々言いたくなるが、格好もねえ。「塔」だけでなく、二つの「山」を見せつけていくスタイル。季節は不明だが、地上600mで風があれば体感温度はかなり低そうだが。ハンターはかなりムチムチで「山」も高いのだが、こういう所まで伏線になっているんだよなあ

おじさんにはたまらないサービスショットが多いし、高所恐怖症じゃなければ気楽に見れる娯楽作品としてオススメできる

 

・Mad Heidi(マッド・ハイジ) 1.7
日本未公開のスイス映画だが、ネットで視聴可能(有料)。Heidiはヨハンナ・シュピリの小説より、日本ではアニメ「アルプスの少女ハイジ」と言うべきか。若い人には「家庭教師のトライ」のCMキャラと言えば分かって貰えるか

特にヨーロッパでは多くの国で放送された「アルプスの少女ハイジ」だが、有名なOP曲の「おしえて」等、日本版の主題歌は差し替えられて放送された国が多い。また、「アルプスの少女ハイジ」はスイスでは放送されていない。本家のプライドがあるのだろうか

豆知識はこれ位にして粗筋だが、チーズ企業の独裁政権下にあるスイスで、大人になったハイジがペーターを殺された恨みを晴らすべく、戦士になってリベンジする話

一言で言って中途半端。基本的にはおバカ映画なのだろうけど。独裁政権と言うとヒトラーナチスを思い浮かべるが、同じくヒトラーを題材にしたおバカ映画「アフリカン・カンフー・ナチス」と比べるとおバカ度が足りない。まあ、日本と欧米の感性の違いかも知れないが

おバカ映画として物足りないなら他の要素となるが、アクションシーンは正直イマイチ。ハイジ役の女優は眼力があって強そうなんだけどね。まあ、代役だから仕方ないか。それとゴアシーンが多いが、その割には大したことないし笑えもしないし。でも、苦手な人にはきつそうだし

ストーリー的にはバカになるチーズとか面白い要素はあるが、全体的に大人しすぎる。スイスのアイコンであるハイジを汚すことへの葛藤が感じられて萎える。どうせ怒られるんだから、もっと振り切って欲しかった

個人的には厳し目の評価だが、面白いってレビューもあるし日本でも2週間限定とかでいいので劇場公開すればいいと思うけどねえ

 

・エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 0.5
カンヌにせよアカデミー賞にせよ、ノミネートされる作品=面白いではないが、今年度のノミネート作品は酷いの一言。本作はかなり好みが分かれるタイプの作品で、6人いたら3人が面白い、2人がつまらない、1人が普通位になりそう

マルチバースMCU等の作品でお馴染みだが、内容的に必然性がないのに営業上、過去の作品でも商売する為の帳尻合わせに過ぎない印象。ただ、本作のマルチバースはそれ以下。ストーリー上必要性が感じられない上に、映像的な見どころも無い

ダラダラとしたストーリーを家族愛で誤魔化したという印象で本作に高評価を付ける理由がない。ストーリーに重きをおいていないのなら、もっとシンプルなストーリーでいいと思うが。ストーリーを追ってしまうから、小ネタも見逃してしまう

それと人様のレビューにケチをつけるのも何だが、本作をSFとして紹介するのは如何なものか。こんなんSFじゃないでしょ。まあ、本作をSFだと思って見に行く人は皆無だと思うが

関係者の忖度記事が目につくが、忖度記事ラッシュ=中身は?ってこと。興行成績ランキングの上位はアニメ作品ばかりだが、この手の記事に騙されてきたから実写映画に世間は反応しないんでしょ。話題性はあるのだろうが、こんなブルーチーズみたいな作品を日本でヒットさせるのは無理だろう

 

・茶飲友達 3.5
口コミで話題になった作品。実際にあった事件をモチーフにしているだけに生々しさがあるし、「高齢者と性」という尻込みしそうなテーマに向かい合う作品としては評価できる。面白い作品ではあるが、色々言いたくなる所が多いので点数の割には厳しい内容になるのでご容赦を

ダメな所を一言で言えば無駄に長い。各々のエピソードを掘り下げようとして、投げっぱなしになっている。特に問題なのは千佳の妊娠話。作中では触れていないが、二人の関係は?明らかに歳が離れているし、○交としか思えないのだが

また、出産の覚悟にしても明らかに甘い見通しなのだが、それを叱責するのがメインではない筈。他にもカヨのパチンコ依存症の話とか、とりあえず社会問題になっていることを安易に詰め込んだ感が否めない

それと法律に詳しい人物がいたが、実際の事件でもそうだったのだろうか。流石にこのサービスを無許可で提供するのはアウトだと思うのだが。本番の有無はともかく、内容的にはデリヘルで、それには風営法に基づく届け出が必要なのは自明なのだが

本作では高齢者と性の問題だけでなく拠り所のない若者の問題も描いているが、その二つだけで十分すぎる程のボリューム。掘り下げるのはマナと松子だけで、他の人達も訳ありなんだな位の描写で良かったと思う。まあ、実際の事件では運営側も老人だった訳だが

キャストではマナを演じた岡本玲も良かったが、主役は風俗嬢を演じた面々。ワークショップを経て選ばれたらしいが、堂々とした演技は人生経験の豊富さ故か

 

Winny 3.9
Winny事件を映画化した作品。本件といいCoinhive事件といい、日本がIT後進国であることを象徴している事件。まあ、ドブ板選挙でITとは無縁の政治家が人事に口を出しているんだから、出世に繋がらないIT技術を勉強しようなんて思う訳がないわな

本作一番の話題は東出昌大が主演していることだろう。本作が復帰作ではないが、復帰後一番の話題作と言えよう。唐田えりかの復帰作も公開されるし、いつまでもネチネチと言うことではないと思うけどね

東出演じる金子勇は浮世離れした如何にも学者肌な人物って感じ。三浦貴大演じる壇俊光弁護士は熱血漢な印象。実際の容姿に寄せていることもあって、本当にこういう人物だったのだろうなと思わせる。まあ、美味しい所は吹越満演じる秋田弁護士が持っていった感があるが

本作は地裁での判決までを段階を経て描いているので、人質司法と揶揄される日本の司法の問題点が浮き彫りになる。また。素人の裁判官に技術的な話を分からせる必要があることもあって、この手の話に疎い人にも分かるように噛み砕いているのはいいと思う。これでも分からんって人は多いだろうけど

本作の不満点は大きく2つ。1つ目は愛媛県警の裏金問題と抱合せにした点。Winny事件との関連性が薄い上に中途半端な扱い。告発した仙波敏郎巡査部長はこの後波乱万丈の展開が待っているので、別途映画化したら面白い作品になりそうだが

2つ目は控訴審、上告審を完全カットしていること。いくら京都地裁の公判をメインにするとしても、有罪判決が大阪高裁、最高裁(共に無罪判決)で何故覆ることになったか位は触れないとねえ…

本当は京都府警の狙いがはっきり分かれば面白いが、(当時の)関係者が映画に協力するとは思えないし。両側から描くと視点がぼやけるのも事実。本作では警察=プライドだけは高いポンコツでいい

是非、若いエンジニアや研究者に見て貰いたい作品だが、2時間超えだと集中力が持たないだろうな

P.S. 本作にも阿曽山大噴火が出演している。すっかり裁判映画の常連だな