2023年に視聴した映画短評(その3)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

 

・エゴイスト 3.3
高山真の同名小説を映画化した作品。鈴木亮平宮沢氷魚の濃厚なラブシーンが話題になっているが、看板に偽りなし。どこぞの政治家や役人は卒倒するだろうな。覚悟して見に行った方がいいと思うが、ここまで絡みを前面に押し出す必要はなかったと思う

本作で描きたいのはゲイではないと思うし。前半こそ絡みも多くゲイらしいシーンが多いが、後半は…。本作で描きたいのは家族愛とか形にとらわれない愛なのだと思う

全体的にシーンが長いのとパンで空間を認識させるシーンが多いのが本作の特徴だろう。素で行動している感じを出しているのと同時にゆったりとした進行は余韻を持たせ、タイトルの意味を否が応にも考えさせられる

ただ、作品としてはピークが前に来ていて尻すぼみな感じで時間もやや長く感じる。最後も映画っぽい終わり方ではあるけど、意外性はないしね。もう少しシーンに長短を持たせたり、後半の脚本にメリハリが欲しかった

キャストだが、鈴木亮平は流石と言うか、きっちり役作りして臨んだんだろうなと感じさせる演技。でも、本作で印象に残るシーンはやはり濃厚な絡みで、それは宮沢氷魚による所が大きいと思う。色白だし、雰囲気が出ていると言うか。外でキスをするシーンはいい意味でゾクッとした

阿川佐和子は役者のイメージはないが、いい意味で普通の演技で良かった。柄本明は演技の幅が凄い。「ある男」では当に怪演って感じだけど、本作は打って変わって落ち着いた演技で同じ人物とは思えない

上述のように映画としての完成度はそこまで高いと思わないが、同性愛はタイムリーな話題だし、どうしてもキワモノ扱いされがちな日本でこの二人がゲイを演じる意味は大きいと思う。裸目当てなのか女性が多かったが、絡みが目的であっても本作のテーマについては考えて欲しいと思った

 

・REVOLUTION+1 2.0
安倍晋三暗殺事件の容疑者、山上徹也をモデルにした作品。国葬に合わせての公開は一部で上映中止になるなど物議を醸したが、筆者が見たのは国葬に合わせての未完成版ではなく後日公開された完成版

足立監督は元日本赤軍メンバーと言う事もあってテロを礼賛するようなさぞかし過激な作品なのかと思いきや、割りとまともと言うか大人しめの作品。それでも、ネトウヨが見たら発狂するかも知れないが

印象的なのはターゲットを明確にしている所。山上容疑者は安倍に拘ってはいなかったと言っていたと思うが、そんなことはないだろう。勿論、マザームーンとか他のターゲットもいただろうが、旧統一教会への復讐の上で最上級のターゲットの一人だったのは間違いないと思う

それと女性を絡めている所。女性との絡みで自身のコンプレックスを意識すると共に、ターニングポイントにもなりうる存在ってことなのかね。ただ、ネーミングが若い女と若くない女って…。まあ、この辺はフィクションだろうけど

正直、映画自体の出来はいいとは言えない。如何にも突貫工事って感じ。モキュメンタリーだが、時系列が前後する所があって分かりにくい。極力、事実に基づいて制作されているとは思うが、既知の情報の寄せ集めに過ぎず本当の理由に迫るような作品ではないので、そこまで説得力はない

それと最後は妹のモノローグで締めるのだが、これはいらなかったと思う。ただ、上述したように女性がターニングポイントであって、もし妹ともっと話をしていれば犯行に及ばなかった可能性もあったってことを強調したいのか

本作の制作に当たっては山上容疑者に取材をしていないだろうし、別の監督でいいから後日山上容疑者にインタビューした上で事件の真相に迫る作品を期待したい。今のままだと、事件の真相も政治と旧統一教会との関わり合いも有耶無耶になるのがオチだろう

 

・イニシェリン島の精霊 0.5
スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督作品。本年度のアカデミー作品賞にノミネートされているが、如何にもノミネートされそうな駄作という印象。上映時間が2時間を切っているのが唯一の救い

舞台は1923年のイニシェリン島。「都会風を吹かすな」とか言い出す奴がいそうな典型的なド田舎で、住民全員が顔見知り。外界との交流が少ないからか、一癖も二癖もある連中ばかり

そんな島に住む男二人の喧嘩を仲が良かった頃の描写もなく、理由らしき理由も提示せずに描かれてもねえ。まるでひろゆきホリエモンの喧嘩を見ているようで、似た者同士が何やってるのって感じ

精霊とはバンシーのこと。アイルランドに伝わる妖精で、死が近くなると現れ、その叫び声が聞こえた家では死者が出ると言われている。大砲の音は戦争(アイルランド紛争)によるもので、孤島であるイニシェリン島からは遠くの揉め事に思えるってことだろう

バンシーの叫び声を聞いた男がこれまでの生き方を省みたのだろうが、この狭い島で理由らしき理由もなく関係を断てるとは到底思えないし、音楽に生きると誓った男が指を切り落とすのは理解の範疇を超えている

アイルランドの歴史を知っていれば理解度が深まって面白いというレビューも散見されるが、ぶっちゃけ関係ないと思う。それより「スリー・ビルボード」をレンタルするなりして、面白いと思ったら本作を視聴すれば良い。合わない人にはとことん合わない作品。1,900円をドブに捨てるのは勿体ない

 

・あなたの微笑み 2.2
割りと評判が良さそうなので観てみたが、一言で言えば中途半端。物作り系の映画って、明らかに過大評価になりがちだよなあ

素直に自分の作品を上映してくれる映画館探しの旅一本で行けば良かったと思う。映画館探しの中でミニシアターの苦悩、無名監督の苦労をコメディ要素を交えながら描いているが、本作が評価されているのはこの部分であって、"おまけ"ではないだろう

社長も謎の少女も悪くはないが、使うなら最後まで使わないと。何となくフェードアウトって感じだからなあ。映画館巡りの話は面白いのに、中途半端な作品って印象しか残らないのは残念

 

・逆転のトライアングル 0.0
去年のパルムドール受賞作品。パルムドール受賞作品にあまりいいイメージがない上にアカデミー作品賞ノミネートとなると"特級呪物"の予感しかしないが、まさかの"特級汚物"だったとは

ブラックジョークというよりは斜に構えた視線から皮肉る感じはヨーロッパ映画らしい。ただ、本作で何を伝えたいのかが伝わってこないのもあって、スマートさに欠けて野暮ったい

"極刑"評価だけに当然批判のオンパレードになる訳だが、まず無駄に長い。約2時間半の作品だが、ぶっちゃけ1時間半もかからないよねって内容。本作は全3章からなるが、第一章って必要かね。この二人が第二章以降の語り部になるとかではなく、セレブ軍団の一組って扱いなのに。まあ、第三章…

それからシーンに無駄が多い。態々、似たようなシーンを繰り返すし。状況にそぐわないことをしているのは1回で伝わるって。こういう所も野暮ったい

次に"汚物"について。某あとしまつ映画では口走るだけだったが、本作ではリアルにブツが。しかも、しつこく何回も。船酔いして当然の状況ではあるけど、何回も必要ないでしょ。こんなんだったら、ジジババの乱交パーティの方が数段マシ

最後にとにかく雑。所謂ぶん投げENDだしねえ。この薄い内容でぶん投げて、一体何を伝えたいんだよ。本作のメインは第三章だろうが、まず何でこの人に牛耳られるのって思ってしまう

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」なのかね。筆者のような凡人には駄作にしか思えないが、見る人が見れば傑作なのだろう。まあ、本作がヒットするとは思えないし、"被害者"は少ないと思うけど