2022年に視聴した映画短評(その15)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・グリーン・ナイト 0.5
指輪物語で有名なJ・R・R・トールキンが現代英語訳したことで知られるサー・ガウェインと緑の騎士をベースにしたダークファンタジー。圧倒的映像美?暗くてよく分からんのだが

全体的に画面が暗い、テンポが悪く抑揚に乏しいストーリー。まあ、こういう世界観なんだろうな。良くも悪くも中世ヨーロッパの話って感じ。ワールドカップ視聴による寝不足を解消するにはいいかも。最近、倍速再生の是非が話題になるけど、2倍速でお願いしますって言いたくなる

一応、サー・ガウェインと緑の騎士のあらすじはチェックしてから視聴したので、何しているのか分からんってことはなかったが、そのレベルの人が視聴するような作品ではないのだろう。原作や中世ヨーロッパの話が好きな人、静かに進行する作品が好きじゃないとついていけないだろう

 

ギレルモ・デル・トロピノッキオ 3.9
去年から続くピノキオリメイク3部作(?)の最後の作品。タイトル通り、ギレルモ・デル・トロ監督のストップモーションアニメ。ユアン・マクレガー、デビッド・ブラッドリー等、声優は豪華キャスト

本作はネトフリで配信しているようにディズニー制作ではないが、あらすじは1940年のアニメ版に準拠している感じ。ミュージカル仕立てだしリスペクトを感じる。但し、使用されるのは星に願いを等のアニメ版の曲ではなくオリジナル楽曲

舞台はアニメ版とは異なり、第一次世界大戦下のイタリア。それに伴い改変も多いが、特にカルロを失くして失意の底にあるゼペットを描いているのはいい。ピノキオはかなり有名な話だし見所を中心に描けばいいという考えもあろうが、ストーリーの説得力は違ってくると思う

最近公開されたディズニーの実写版は冒険譚メインで"軽い"のに対して、こちらは人間ドラマをしっかりと描く感じで重厚感がある。ピノキオは元々児童文学の割に風刺色が強いが、本作はディズニー版よりその傾向が強い

特にムッソリーニをコケにする所は中々強烈で子供も見る作品でどうなのと思うが、中身が空っぽで偉ぶっているだけの権力者に抗う姿勢は全編に見られギレルモらしいと思う。ブラック上等、権力者に阿るのが当たり前と思っている連中に支配されている国には馴染まないと思うけど

ストーリー以上に素晴らしいと思うのが映像。本作にはマーク・グスタフソンが共同監督で関わっているが、いい意味でストップモーションアニメとは思えず実はCGなんじゃないのと思ってしまう。顔の表面はシリコン製らしく、質感が本物の顔に近くて表情豊かに感じる

正直もっと毒があっても良かったが、子供も見る作品であることを考慮した結果だろう。独り善がりのオナニー大作よりは遥かにマシ。ギレルモはナイトメア・アリーがゴミだったので期待していなかったが、失地回復って感じ。リメイクの域を超えていると思うし、是非ご覧あれ

 

・ケイコ 目を澄ませて 3.4
今をときめく岸井ゆきのの主演作。実際にプロボクサーだった小笠原恵子の自伝「負けないで!」をベースにした作品で、岸井は耳が聞こえないボクサー、小河ケイコ役を演じる

レビューの前に基礎知識だが、障碍者の大会というとパラリンピックが思い浮かぶが、聴覚障害者の大会はデフリンピックデフリンピックの種目に柔道、空手、テコンドー、レスリングはあるが、ボクシングはないのでデフリンピックを目指すという選択肢はない

次にボクシングの階級について。他の格闘技とは異なり、ボクシングの階級はほぼ男女共通。女子にはミニマム級(女子ではミニフライ級)の下にアトム級が存在する代わりにクルーザー級が存在せず、ライトヘビー級の次はヘビー級になる

ミニマム級の制限体重が105ポンド(47.62kg)以下なのに対して、アトム級は102ポンド(46.26kg)以下。ボクサーと言えば過酷なダイエットのイメージがあるが、岸井ゆきののサイズならダイエットは必要ないだろう

本作の全体的な印象だが、とても斬新に思えた。まるでサイレントムービーを観ているかのよう。ケイコは喋らないし、余計な劇伴はないし。淡々と進む作品なのでメリハリを付けるために「○○○世」とかやりたくなるが、それをやらないのがいい

淡々と進むと書いたようにストーリーに大きな山場がある訳では無い。ケイコの心の葛藤をどう表現するかに全振りした作品と言える。字幕や(他人の)台詞に頼らないのは勿論、日記にもできるだけ触れずに表現したいと考えた結果だろう。まあ、最後は読むんだが、朗読を仙道敦子にやらせたのは良かった

ケイコを演じた岸井ゆきのは勿論良かったが、会長役の三浦友和が印象に残った。老いてもボクシングが好きなのが伝わってくる。会長だけでなくジムもかなり年季が入っているが、こういうジムの方が多いわな。大橋ジムみたいに立派なジムは少ないだろう

難点はボクシングのシーンが少ない。ケイコの心情を表現するのに重きをおいた結果ではあるけど、ボクシング映画としては物足りない。あと、ケイコの心境が分かりにくくモヤモヤ感がある。ラストシーンは吹っ切れたんだと思うが、日記を読むなり字幕で出すなりして決意を表した方がスッキリしたと思う

観客はおっさん多数だったが、寧ろボクシングに入れ込んでない女性の方が心に残る作品になると思う

 

・マッドゴッド 0.8
スター・ウォーズロボコップ等の特殊効果を手掛けてきたフィル・ティペットが監督を務めたダークファンタジーらしいが…。ロボコップ2(1990)の撮影後にアイデアを思い出し制作を開始したものの、プロジェクトの長期中断を挟んで完成は30年後の2021年になった

30年もかけたんだから、さぞかしと思いきや…。ストーリーは意味不明。いくつかのイメージを具現化するのが目的でストーリーなんて考えてなかったのだろう。冒頭で聖書の一節に触れる程度で一切の説明無し。解説を見ないと、キャラや舞台の設定が理解できない

肝心の映像だが、見所なしではないものの…って感じ。明らかに合成で、ストップモーションアニメを極めたとは言い難い上に無駄にグロいシーンが多い。ホラーが苦手な人にはきついかも

ディストピアストップモーションアニメ、…。昨年公開されたJUNK HEADを思い出すが、ぶっちゃけ足下にも及ばない作品。この手の作品にストーリーなんていらんだろって人ならいいかも知れないが、本作を見る位ならJUNK HEADを視聴することをお勧めする

 

・MEN 同じ顔の男たち 1.5
解説によると「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手がけ、「ロスト・ドーター」のジェシー・バックリー主演で描くサスペンススリラーらしい

らしいと書いたのは、駄作あるあるとも言えるジャンル不明作品だから。前半はサスペンス、後半はホラーって感じか。中途半端と言うか、ホラーに逃げたと言うべきなのか

ただ、サスペンスとしてよりはホラーとしての方がまだ評価できる。R15+なだけあって結構グロいし、来る~って恐怖があるからね。全てをぶん投げて終わる作品なのでサスペンスとしては1mmも評価できないが、ホラーであっても少しは真相に迫って欲しいものだが

初っ端から林檎を禁断の果実と言ってみたり、かなりキリスト教をサジェストしている。それとアニミズム的な古い価値観が合わさったものが根底にある感じなのかね。面白いと思った作品なら考察する気にもなるが、この程度の作品じゃねえ…

「ミッドサマー」が当たったから、それっぽく作れば当たるんじゃねって感じで作ったんだろうな。「ミッドサマー」よりいいって意見も散見されるが、お勧めはしかねる作品