2022年に視聴した映画短評(その1)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・ただ悪より救いたまえ 3.1
所謂韓国ノワールと呼ばれるジャンルの作品。残虐過ぎるバイオレンス、お涙頂戴のストーリー、如何にも韓国アクションと言ったシナリオ。アクションシーンは迫力があるし、終盤に向けて緊迫感が高まっていく

ただ、脚本は緻密とは言い難いし、良くも悪くも予想通り。まあ、予想通りでも上述のようにアクションシーンの出来がいいので面白いが、いいとこ取りのシナリオは何となく既視感があって本作ならではと言うのが無いのが残念

 

・クライ・マッチョ 3.0
90歳を過ぎても精力的に制作活動を続けるイーストウッドの最新作。本作でも主演なのは驚いた。主演は「運び屋」が最後かなって思っていたので

脚本は正直微妙。展開に乏しい。粗筋的に「運び屋」のようなサスペンスを期待する人が多いだろうが、それを期待するなら見ない方がいい。俺が本作で描きたいのは逃避行ではないと言わんばかりに、ストーリーの本筋に関わる部分は淡々と描かれている

ただ、最近のイーストウッド作品らしさは健在。少年ラフォはかなりの悪ガキで生い立ちを鑑みるとグレてもおかしくないのだが、それに同情するでも(素行を)詰るでもなく諭すような語り口なのは「リチャード・ジュエル」と似通った部分がある

ラフォにせよリチャード・ジュエルにせよイーストウッドからすれば孫や曾孫のような年齢であり、お爺ちゃん目線になるのだろう。イーストウッドアメリカには珍しい仕事人間だが、最近は家族を大切にしたいという心境なのだろう

もし、最近のイーストウッド作品を見ていないのなら「運び屋」や「リチャード・ジュエル」を見てから本作の視聴を判断した方がいいだろう。ぶっちゃけ最近の作品の中ではハズレかなと思うし。もう賞レースにも興味ないだろうし、好きなように作品を作って許されると思うので今後の作品に期待したい

 

シルクロード.com 史上最大の闇サイト 1.0
シルクロードの顛末を知っているせいなのか兎に角つまらんかった。辛すぎる点数かも知れないが、つまらんのは事実だしねえ…

何がダメかを列挙していくと、まずカール・マーク・フォース(劇中ではリック・ボーデン)を主人公にしたこと。現場主義のベテラン刑事がインテリで頭でっかちの若手上司を出し抜く、アナログ人間がサイバー犯罪に立ち向かうと言うのは如何にもステレオタイプで陳腐と言わざるを得ない

次にフォーカスが定まっていない。リックの立場じゃ事件の全貌は解らないからどうしてもチームリーダーであるクリス・ターベル目線は必要になるし、更にシルクロードの創設者であるロス・ウルブリヒト目線にかなりの時間を割いている為に没入感に欠ける

それに加えて家族とか恋人との絡みに時間を割きすぎ。エジソンやテスラの伝記映画でもそうだったが、理系人間=堅苦しいと言うイメージを打破したいのか、極力難しい内容を回避したいのか分からんが内容の薄さに結びついている

最後に凄さが全く伝わってこない。シルクロードの革新性もそうだが、オニオンピーラー作戦でIPアドレスを特定するまでに気の遠くなるような地道な作業があることが伝わらない為、最終盤にかけての盛り上がりに欠ける

少しでも間口を広げて多くの人に観て貰いたいのだろうが、中途半端で誰の得にもならない典型のような作品。本作は中途半端に脚色されているので、もしシルクロードについて知りたいなら無料の解説動画を見た方が時間と金を節約できる上に為になる。お金は有意義に使うべし

 

・スティルウォーター 1.5
この映画を一言で言えば、全ての写真がピンボケな写真集って感じ。これを味があると評価する人もいるんだろうが

サスペンスだが、事の顛末を伏せ続けて話が進んでいくので何が争点なのかが分からず話に入れない感じ。重要人物にフォーカスしたかと思ったら"中休み"。休憩明けの展開はしょーもないし、肝心の謎解きも感心するほどではないし

家族愛とか独善的な正義感とか色々メッセージを込めたんだろうが、ぼやっとして何を伝えたいのか分からない。「由宇子の天秤」みたいと言うレビューがあったので当作が好きな人には刺さるのかも知れないが、全て投げっぱなしって感じの作品を当方は全く好きになれない

 

・コーダ あいのうた 3.9
2014年のフランス映画「エール!」のリメイクらしいが、当方は未視聴

本作の感想を一言で言えば「上手い」。本作はデフ(聾)の家族を支えるヤングケアラーの問題と言う硬派な内容を含んではいるが、自分の進みたい進路に対して家族の理解を得ると言う割と一般的な話に落とし込んでいる。本作を観る人の大半は健常者で、障碍者固有の問題を理解するのは困難だと思う

この家族は漁師として生計を立てているが、障碍者と健常者が共生する社会の概念としてノーマライゼーションと言うのがあって本作ではその難しさにも触れているが、これもアメリカらしい下品な明るさで深入りしない感じで纏めている。障碍者だってすることはするのは当然のこと

原作では家族はもっと尖った性格らしいが、上記のように障碍者問題にも深く立ち入らず全体的にマイルドな作り。本作の方がより広い層に観て貰い易いと思うが、原作ファンからすれば物足りないのかも

ストーリー的には普通って感じだが、終盤の演出は見事でこの映画の素晴らしいCODAとして機能している。因みに、CODAはChildren of Deaf Adults(⽿の聴こえない両親に育てられた子供)のことで、ダブルミーニングになっている

本作では作中に懐メロが数多く使われているが、洋楽に詳しくない小生は「青春の光と影(Both Sides Now)」位しか分からなかった。歌のシーンについては上手く歌えている時とそうでない時が分かるように演じ分けられているが、ブツ切りが多いのはイマイチ。まあ、仕方ないと思うけど

良くできた作品だと思うが、これって言う所がない作品なのも事実ではある。とは言え、お金を出して映画館で観る価値は十分にあるので是非映画館でどうぞ。もっとデフについて別の角度から知りたいなら、昨年公開された「サウンド・オブ・メタル」の視聴をお勧めする

最後に余計なことだが、もし手話を勉強したいなら本作は役に立たないかも。アメリカの手話と日本の手話は別物なので。点字に関しては表している文字が言語によって異なるとは言え、世界的にブライユ式点字が使われているのだが