2022年に視聴した映画短評(その4)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

東洋の魔女 4.1
若い人は知らないだろうが、東洋の魔女東京五輪(1964)で金メダルを獲得した女子バレーボールチームの愛称。ほぼニチボー貝塚の選手で構成されていて、監督もニチボー貝塚大松博文ソ連との優勝決定戦は66.8%(ビデオリサーチ)という驚異の視聴率を記録した

ニチボー貝塚は大日本紡績貝塚工場に1954年に作られた女子バレーボールチーム(日紡貝塚)が1958年に9人制→6人制を経て1964年に社名変更に伴い改称、以下1969年にユニチカ貝塚、1977年にユニチカVリーグ発足に伴い1991年にユニチカ・フェニックスとなった

しかし、業績不振から1997年に貝塚工場は操業停止、2000年にはチームも活動停止。選手は東レ(・アローズ)に完全移籍した。工場跡地の大半は売却されショッピングセンターや住宅になったが、一部は貝塚市に寄贈されて貝塚市歴史展示館として公開されている

チームの歴史はこれ位にしてルールの確認を。現在はラリーポイント制を採用しているが、当時はサーブ権制でサーブ権を持っている方にしか得点が入らない(持たない方が決めた場合、持っている方のミスはサーブ権移動)、リベロ(守備専門選手)が存在しないのが大きな違いか

本作は勿論、日本を題材としているが監督はフランス人である。外国人による日本を題材にしたドキュメンタリー(風)映画は去年MINAMATA、ONODA等が公開されて本作も去年公開された

正直、東洋の魔女を追ったドキュメンタリーとしては物足りない面が多い。ただ、東京五輪(1964)の記録映像は勿論、東洋の魔女に迫るドキュメンタリーはこれまでもあった訳で、"普通の"ドキュメンタリーを今作る理由は乏しいと思う

勿論、元選手へのインタビューや当時の練習風景、試合の映像など東洋の魔女の足跡を追ってはいるが、それよりも東洋の魔女を通じて外国人から見た当時の日本人のメンタリティ(の強さ)に迫る方がメインなのだろう。ただ、イメージで語る感じで伝わりにくい所もあるが

本作は映像の見せ方が独特でドキュメンタリー映画のイメージをいい意味で打ち破っている。往年の人気アニメ"アタックNo.1"と記録映像のクロスオーバーが多いが違和感はない。まるでアニメの様とよく言われるが、寧ろアタックNo.1東洋の魔女の様なのだ

当方は東京五輪(1964)は生まれる前なので、バレーと言えばユニチカよりも中田久美三屋裕子、大林素子らが所属していた日立(・ベルフィーユ)の方が印象に残っているが、本作は十分楽しめた。ただ、若い人には厳しいかもね

 

・テレビで会えない芸人 3.5
かつて社会風刺ネタで人気だった「ザ・ニュースペーパー」のメンバーだった松元ヒロを追ったドキュメンタリー。休日+サービスデーとは言え満席+αになるとはね。松元ヒロのファンが多く観に来たのだろう

上映時間が短めな分ダラダラ感は皆無で、松元の略歴は勿論、松元と親交の深かった人物とのエピソード、練習風景やライブの様子等そつなく纏めた印象。風刺と言っても昨今のネットのようにメタメタに扱き下ろすのではなくチクリと刺す感じなのはあくまでお笑いであると同時に松元の人柄なのだろう

ただ、松元がTVから舞台に活躍の場を求めたのは事実だろうが、昨今TVに出ない芸能人なんて珍しくない。かつてはバラエティ番組の常連であった稲川淳二は今は怪談ライブがメインだし、オリエンタルラジオ中田敦彦等YouTuberとして活躍する芸能人は数多い

松元がTVに必要とされない理由は尖ったネタのせいなのだろうか。今時社会風刺ネタは難しいのかも知れないが、そもそもお笑いは尖った所があるものだし、ワイドショーのコメンテーターの尖った発言は炎上することもあるものの賞賛も珍しくなく、尖ったネタが全く受け入れられないことはない筈だ

そもそも今はお笑い番組が皆無で芸人のネタをTVで観る機会は少ない。雛壇に芸能人を並べての当たり障りのないバラエティ番組ばかりになったTVでは、何かの間違いで日本人は自省すべきだという世相になったとしても松元の出番はないのではなかろうか

松元がメインなのは分かるのだが、タイトルからしてTVと芸人(の関係)に関する考察は必要。それがないから良く纏まった作品だけど何か足りない印象になっているように思う

MXで「小池にはまってさあ大変」が放送されることに期待したい

 

・グッバイ、ドン・グリーズ! 2.5
ノーゲーム・ノーライフ」「宇宙よりも遠い場所」で知られるいしづかあつこ監督の作品。制作会社等、よりもいのスタッフが多く参加している作品で期待が大きかったが、映画評価サイトでは上から下までかなり評価が割れている様子

本作のいい所はまずは作画。超絶作画って程ではないが、ひと夏のアドベンチャーに浸るには十分なクオリティ。それと[Alexandros]の主題歌も作品にあっている

本作の上映時間は95分。これはアニメ映画としては標準だが、同時にスタンド・バイ・ミー(スティーヴン・キング原作、ベン・E・キングの主題歌はかなり有名)を強く意識した結果だろう。監督が好きな映画なのだろうし、スタンド・バイ・ミーみたいな作品にしたい意思が伝わってくる

本作のプロット、細かい所の拘りは悪くないし、タイトルも良く考えられている。但し、エピソードの繋ぎ、登場人物の設定や関係等雑な部分が多く、これが評価を下げている要因だろう

ロウマ、トト、ドロップは高1(相当の設定)だが、高校生にしては子供っぽい。まあ、久々に会って童心に帰るはアリだが、童心に帰るにしても全てが小学生のノリではない訳で。幼稚な部分と人生を語る部分のミスマッチが半端ない

それとドロップとの関係の描写が不足している。ロウマとドロップが知り合ってからの経緯をもう少し入れるべきだった。ヘアドネーションに繋がるドロップの身の上話も人生語りに掻き消されて印象に残らないし。特にトトがドロップとの関係を如何に深めるかはストーリーの説得力に関わってくる

人物以外では市原編とアイスランド編のバランスが悪い。アイスランド編がおまけに感じる。脚本修正が必要だが、思い切ってアイスランドは切っても良かったかも。出来ればチボリをもっと話に絡めてアイスランド編を膨らませれば、スタンド・バイ・ミーのパクリとも言われず監督の個性が出せただろう

何で一人で監督と脚本を担当したのかねえ。細田にせよ新海にせよ一人で監督と脚本だと脚本の完成度が低くなりがち。監督と脚本の相性はあると思うが、よりもいで監督のアニオリ脚本の経験のある花田十輝に頼めば問題なさそうで依頼しなかったのは何か理由があったのだろうか

本作にもお約束の似非声優が出演しているが、田村淳はいいとして指原莉乃はねえ…。声優の仕事はこれが初めてじゃないだろ。まあ、出番は序盤だけでそれほど多くないし棒演技でぶち壊しって程ではないが

評価が割れているように万人受けする作品ではないのは確か。基本的にはスタンド・バイ・ミーを知っていて少年時代の思い出に浸れるおじさん向けで、あとは花江夏樹梶裕貴村瀬歩の熱血演技が観たい人向けだろう

 

Ribbon 3.1
のん(能年玲奈)の長編映画初監督作品。監督のみならず主演・脚本も務めると言うことで、果たしてどうなるかと思ったが。結論から言うと悪くない、寧ろ長編初監督であることを鑑みれば上出来だろう

主張やタイトルの意味は伝わってくる。リボンの目的は幾つかあるが自分の為でなく他人の為に飾るもの。コロナ禍で一人でいる時間が長くなると塞ぎ込みがちだし、"理不尽"に腹を立てがちだ。そういった感情は良く表現できると思う

ただ、冒頭の制作物の破壊シーンこそインパクトがあるが、ストーリーが進む終盤までは中弛み感もある。家族は皆個性的だし、過剰な新型コロナ対策はツッコミ所満載で笑える所もあるが、メインストーリーとは余り関係ないからねえ。上手く絡めて欲しかった

それと公開時期が遅れたのは残念。もっと世間が新型コロナでピリピリしていた頃の方がインパクトがあっただろう。まあ、コロナ禍で上映延期になる作品もあって激しいスクリーン争奪戦が繰り広げられているから仕方ないのかな

本作は美大生が主人公と言うこともあり、おじさんおばさんよりは現役高校生・大学生の方が共感できるだろう。それとのんと山下リオの2ショットは映えるのでファンはそれだけでも満足かも。個人的には山下リオのセクシーショットが観たかったが、そういう作品ではないよなあ

 

・ドライブ・マイ・カー 2.8
海外の映画賞を多数受賞、アカデミー賞作品賞ノミネートと言うことで多くの映画館が上映しだした。好みに合わなさそうな作品で観るつもりはなかったが、レンタル開始と言うことで視聴。率直な感想は思っていたよりは良かったが、ぶっちゃけ過大評価だと思う

本作の素晴らしい所は春樹ワールドと言うか、文学の香りを表現しつつ映画になっていること。何言っているんだと思われるだろうが、村上春樹の作品って抽象的で展開や感情表現に乏しい印象でこれをこのまま映画にすると内容は無いようで意味不明な駄作になりがちだ

本作はドライブ・マイ・カーだけでなく同じ短編集に収録されている木野とシェエラザードチェーホフの戯曲ワーニャ伯父さん等を合わせた脚本になっていて、それがストーリーの展開や厚みに繋がっていると思う

駄目な所は大きく2つ。まずは上映時間。3時間は長すぎる。中盤のワーニャ伯父さんの稽古に時間を割きすぎ。まあ、ワーニャ伯父さんも本作のメッセージだし、ダラダラした感じは村上春樹っぽいとは言えるが

後は終盤。かなり酷い。序盤の違和感が春樹ワールドに引き込まれるいい違和感だとすれば、終盤の違和感はこんなん村上春樹じゃないって感じ。映画として展開が必要なのは分かるが、中盤までの言動と全然一致しないんだよなあ

ラストシーンに至っては失笑モノ。本作は大半を釜山で撮るつもりだったがコロナ禍で断念したらしい。せめてもの罪滅ぼしなのかね。モヤっとして終わるのが村上春樹の作品だと思うが

本作がノミネートされたのはワーニャ伯父さんの多言語演劇に今のアメリカ社会を重ねて観るからだろう。現実は白人と黒人の対立激化に象徴されるように皆が手を取り合って共生する社会とは真逆の方向に進んでいるからねえ