2021年に視聴した映画短評(その11)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・カラミティ 3.5
「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」のレミ・シャイエ監督作品で独特のタッチと色使いは健在。まあ、鬼とか紫とか今時の作画の対極の作風なので、ああいう作画こそ正義と思っている人には合わないだろう

カラミティ・ジェーン(1856-1903)は西部開拓時代に実在した人物で斥候として働いた経験がある軍人。本作は少女時代をアニメ化している。大言壮語癖があるようで自叙伝は嘘が多く本作でもその一端が垣間見えるが、若くして一家を支えることとなった人生に由来するのかも

ストーリーは所謂冒険譚で正直普通。少し捻りが欲しい。勝ち気で実力が伴わないマーサが自身の努力と人とのふれあいによって成長していく様は良く描けている。親子で見るにはいい作品だと思うが、上映スクリーンが少ないのが残念

 

・空白 4.2
流石、吉田恵輔監督と言うべきか。脚本の完成度が素晴らしい。「BLUE ブルー」は未視聴だが観たくなった

ほんの些細な出来事が多くの人を巻き込む大事になる。これにマスコミが食いつくかと言えば微妙だが、これだけキャラの立ったモンスターペアレントが大暴れすれば食いついても不思議ではない。"視聴率が取れればモラルは二の次"なのは眞子さまと小室圭さんの結婚騒動報道を見れば良く分かる

古田新太演じる父親と寺島しのぶ演じるスーパーの店員は世間的な評価は正反対だろうが、どちらも…。完全に被害者だと思っていた父親に気付かせる件も上手く出来ていて、本作のテーマを炙り出している

ただ、群像劇風味なのと要素を盛り込み過ぎなのは映画としてちょっと弱い。スーパーの店員はこの映画にとってとても重要な存在ではあるが、"空白"が似合うキャラでは無いと思う。もっと父親と店長にフォーカスした方が"空白"の意味も映画自体も印象に残ったと思う

映画の評価なんて人それぞれだが、この映画はこの映画を低評価にする人にこそ観て欲しい。この作品が低評価なのは恐らく"図星"だから。多様化する社会は止めようがないし、いい加減エコーチェンバーから抜け出さないと社会についていけなくなるだろう

 

サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ 4.0
サウンド・オブ・メタルはダブルミーニングになっている秀逸なタイトル、聞こえるということは微妙。聞こえないということにした方が良かったのでは

正直、ストーリーはそこまで目を引くものはない。コミュニティに参加するまではややグダグダだが、突然聴力を失ったことを考えれば狼狽するのは当然。ラストは微妙だが、印象に残るシーンではある

この作品で印象的なのはデフ(聾)に関する考え方。日本だと障碍者=かわいそうという歪んだ価値観があるが、それは当事者にとってどう感じるのか。本作では「多少の不便はあるが不幸ではない」。だから聾を治そうと思わないし、聾であることを選んて生きている

その価値観を理解するのに役立っているのが本作のサウンド演出。普通の音、無音、ルーベンが聞いている音。サブタイトルの意味が伝わってくる

本作はアマプラで配信されているが是非映画館で味わって欲しい。本作は明るい話ではないし、某女王映画のような音楽映画でもないが音を味わう映画なのは間違いないので

 

・恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜 2.9
強迫性障害(潔癖症)の二人のラブストーリー。ポップな感じのポスターから軽い感じのラブコメを想像するが、前半のみで全体的には軽快な話とは言えない

前半は男性のポーチンがナレーション、話もポーチン目線で進む。癖のある二人の馴れ初めから付き合い始めての話は強迫性障害と向き合いつつも重くならず笑えるラブコメに仕上がっている

後半は女性のジンがナレーションでジン目線の話になる。強迫性障害との関連性は薄くなり単なる男女の拗れ話になる。オチは一応捻ってはいるが○○○だし、オチへの伏線がないから意外性と言うよりは唐突な感じがしてイマイチ

本作はiPhoneで撮影されたらしいがチープな感じはない。画角を変えたりポップな色使いをしたりと画作りには拘りが感じられる

評価だが、前半は褒められるが後半は並以下。トータルではこんなもんだろう

 

プリズナーズ・オブ・ゴーストランド 0.0
最近は酷評されることが多い園子温作品。その園子温が何を血迷ったかハリウッドデビューするとのことで茶化しに行った訳だが…。酷評レビューの嵐も当然だろう

レビューを書く前に最近の他の作品のレビューも斜め読みしたが、やはりと言うか本作だけの問題ではなかったようで。この作品の何がダメって言えば全てと答えたくなるが、掻い摘んで挙げると中途半端そして奇を衒い過ぎだと思う

それとセットで描かれる日本が酷い。一昔前の日本と中国(香港)の区別がついていない欧米人が想像したような日本だもんなあ。インターネットで簡単に情報が得られる時代にこれはない。海外でもこれでウケるとは思えないのだが…

冷たい熱帯魚」「ヒミズ」辺りがピークだったのか。今後、少なくとも自費で園子温の新作を観ることはないだろう