2021年に視聴した映画短評(その10)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・2887 2.8
アベ政治の検証映画。タイトルの2887は2019年11月に首相通算在職日数が桂太郎の2886日を抜いて歴代最長になったことに因んでいる。因みに、2020年9月に内閣総辞職するまでの通算在職日数は3188日、第2次安倍政権の2822日も連続在職としては歴代最長である

本作の良い所を挙げると、まず(不十分だが)テーマに沿って検証している所。最近の政治映画と言うと「パンケーキを毒見する」になると思うが、スガ政治の検証と言う点ではかなり不満が残る出来。まあ、パンケーキ~は政治に興味がない層にも興味を持って貰うことの方が主軸なのかなと思うが

次に、批判のベースを定めている所。日本国憲法の前文だったり安倍政権発足時の施政方針演説だったり「前提」「初志」に対してになっている。安倍政権に限らず最近は論点ずらしが当たり前になっているし、批判する方も兎に角こいつは悪いんだって無理筋な批判になることも多いので

他には松元ヒロがいい味出している。ドキュメンタリーと言えども映画としてエンタメ性は必要だし、話と話を繋ぐ潤滑油的な役割を果たしている

良く中立じゃないという批判があるが、特にドキュメンタリー映画はメッセージ性が強い訳で中立なんて有り得ないと思うが。中立じゃないと喚く人の多くは自分の主張にそぐわないことを言い換えているだけだし。ただ、本作に関してはアベ政治の功の部分にもスポットを当てるべきだったと思う

各テーマについても簡単に見ていくと、

憲法改正
事あるごとに憲法改正と口にしてきた安倍。憲法第9条に自衛隊の存在を明記することの先にあるものは?と訝るのも自然だろう。ただ、憲法改正に反対でも、そもそも自衛隊の存在が違憲とか如何なる事があっても自衛隊は海外に行くべきではないと考える人は余りいないだろう

現実的な批判としては「(PKO邦人救出等の活動に)自衛隊を海外派遣するのに憲法改正は必要か?」だろう。実際、憲法改正無しで海外派遣している訳で、これについて憲法学者にコメントを貰えれば良かったと思う。まあ、5つのテーマの中では一番出来が良かった

拉致問題」「辺野古新基地建設」
拉致に関してはやる気はないが手柄だけは横取りできる状態に、辺野古に関しては東アジアにはイキるのにアメリカには全く頭が上がらないという安倍らしさが出ているが、これらについては簡単に触れる程度でアベノミクスや他のことに時間を割いた方が良かったと思う

アベノミクス
5つのテーマの内の1つという扱いなのだろうが、安倍政権の看板政策だしもっと時間をかけるべきだっただろう。大企業優遇は分かるのだが、他にも問題点は色々あるでしょ。ネタバレもどうかと思うのでこれ以上は止めておくが

福島原発
率直に言ってこれは酷すぎる。ワイドショーレベル。ただ吐き捨てるのも何なのでもう少し噛み砕くと、まず主張は何?、そして論理が稚拙と言うこと

安倍が福島原発はコントロールできていると言ったのは嘘だと言うのが主張なのか。安倍の嘘なら本作の他の話で触れているようにもっと手短で分かりやすい例がある訳で福島原発を扱う必然性が感じられない。まあ、切り捨てるのも何なので「福島原発の問題はまだ終わっていない」が主張であると解釈する

ぶっちゃけコントロールできているかなんて関係ない。できていようがいまいが現状の問題に対して何とかするのが行政及び東京電力のタスクだし。それより最悪だと思ったのは漠然と放射能(敢えてこう記述する)の恐怖を煽る所

人体を構成する蛋白質。主な成分は炭素と水素だが、炭素も水素も一定割合の放射性同位体を含む。放射性同位体は文字通り放射能を持つので言い換えれば人間は放射能と言うことになる。それから、福島原発周辺以外の空間放射線量の高い地域は福島の汚染物質が拡散したから除染しろとでも言う気なのか

空間放射線量は総じて(福島の影響を受けたとは考えられない)西日本の方が高い。それは御影石(御影は神戸の地名)で知られるように土壌に花崗岩を含むので、花崗岩に含まれる放射性物質γ線を放出するから

じゃあ西日本になんて住んでいられないって話になるが、日本人の年間平均被曝線量は約6mSv、うち自然放射線による被曝線量は約2.1mSv。空間放射線量の違いは都道府県平均だと0.4mSv程度なので局所的に放射線量が多い場所に住まない限りは大差ないレベルだろう

この位にしておくが、何も分かっていない素人がTV番組を見て焚き付けられて作ってみました感は否めない。ここまでチクチク言う人は少ないにしろ、原発の話は他にもツッコミ所があるし疑問を持つ人が多いのではなかろうか

テーマ以外では辞める辞める詐欺については取り上げていたが、国会答弁を問題にするならご飯論法(「朝ごはんは食べた?」「(パンを食べたので)ご飯は食べてない」のように曲解で論点をずらすこと)を取り上げないと。代表質問は制限時間があるので、こういう答弁で時間を潰して逃げ切れてしまう

それから安倍政権下で辞任した大臣の話があったが、ドリル小渕等政治資金の杜撰な管理によるものが目立つ。安倍自身もモリカケ桜等疑惑に事欠かないので政治とカネの問題を取り上げると思っていた

ただ、個々の疑惑についての説明も必要だし、捜査が進まないことには疑惑止まりなのも事実で敢えて取り上げないのはアリだと思う

一番の不満はタイトル回収が出来ていないこと。「何故、安倍政権は2887日も続いたのか?」という視点が皆無なので。一番広い解答をするなら「政権を私物化して好き勝手やってきたから」だと思うが、じゃあそれは具体的に何なのか?

答えは沢山あるし、本作の中にも答えは散りばめられているが、最大の秘訣がアベノミクスなのは疑いようがなく、それ故アベノミクスについてはもっと掘り下げて欲しかった

この映画を未来への警鐘にしたいとのことだが、警鐘とするなら何故長く続いたかの視点は絶対必要。日本は曲がりなりにも議会制民主主義国家。悪政であっても政権が短命に終わればやれることは限られる訳で

この映画をお勧めできる層についてだが、アベ政治に批判的なのは前提として良くも悪くも"素人"目線の映画なのでワイドショー世代、つまり主婦と老人向けだろう。実際、(マスクで分かりにくいが)高齢者が多かった印象

ジャック&ベティは所謂ミニシアターで一般の映画館に比べると若い人が少ないのは事実だが、高齢者がここまで多いのは今まで経験がない。時間帯もあるだろうが、作品の認知度の低さも影響しているかも

採点はパンケーキ~と同様、作品だけの評価なら2点程度かなと思うが、この作品が世に出る意義、素人制作の作品と言うことを考慮してこの点数で

 

・MINAMATA ミナマタ 2.9
この作品は水俣病について扱った作品ではあるが、あくまでユージン・スミスの写真集「MINAMATA」を題材にした伝記風エンタメ作品なので、ドキュメンタリーとして見ると全体的に掘り下げ不足が目立つ

ジョニー・デップと言えば、パイレーツ・オブ・カリビアンでスターダムに上り詰めた感があるが、最近はスキャンダル続き。飲んだくれてすぐやる気を無くす、もう終わったカメラマンという評価であったユージン・スミス役は今のジョニー・デップにオーバーラップするものがある

この作品はユージン・スミス水俣の人たちに受け入れられる所に重点を置いているように思う。ただでさえ尺が足りてないのに感もあるが、ユージン・スミスがそう考えたのと同時にこの映画の制作陣も本作が水俣そして日本に受け入れられて欲しいというメッセージを感じる

映像的には「MINAMATA」に収められた写真が使われていることもあって、映像もどことなく写真的で写真の力を感じることができる作品。ただ、1970年代の日本を感じさせるロケ地探しが難しいのか、セルビアロケなのは残念な所

ストーリーの掘り下げ不足は置いておくとして後半の展開は悪くないと思うが、前半はテンポが悪い。まあ、ジョニー・デップの演技を堪能する映画だと思うが、個人的にはチッソの社長を演じた國村隼の表情が凄く印象に残った

 

スイング・ステート 4.3
兎に角ラストの大どんでん返しが秀逸。特に邦画は大どんでん返しを謳いながら大したことのない作品が多いので、関係者は刮目してこの作品を見るべきだと思う

舞台はインターネット環境が不十分にも関わらず、(アナログな手段で)あっという間に情報が知れ渡ると言う絵に書いたような田舎町。情報が筒抜けの中、どう選挙戦を展開して行くかになるが…

ぶっちゃけ中盤まではそこまで面白くはないが、終盤にかけての展開が見事で"普通でない"結末を予感させてのこのオチは心地よく騙された感じで見事な脚本だと思う

ティーブ・カレルとローズ・バーンの罵り合いも楽しいが、露骨な下ネタが多いので嫌いな人はダメかも

舞台はアメリカなのでアメリカの選挙を皮肉る内容だが、日本にも通じる所が多い。シニカルな作品が好きな人には本作は刺さると思う

 

・マイ・ダディ 3.0
ムロツヨシの演技を堪能するだけの作品。佐藤二朗と共に賑やかし要員の印象だが、本作では普段とは違うシリアス100%の演技を披露している。ただ、折角ムロツヨシ主演ならコミカルとシリアス、両方の演技が見たかった

ストーリーは至ってシンプル。よほど勘が悪くない限り先は読めるし、ツッコミ所も多いので、本作にサスペンスを求めるなら見ない方がいい。それと本予告=オフィシャルファスト映画なので、映画本編が見たいなら新予告にした方がいい

上述のようにツッコミ所は多いが、特に江津子と結婚するまでの経緯はもう少し詳しく描くべきだっただろう。二人は付き合ってまもなく結婚したのだろうが、ひかりが性行為に積極的なのは江津子譲りだと思われ、江津子と一男は婚前交渉しているのは確実だと思うが

一男は牧師という設定で、牧師としての顔と一人間としての顔が描かれているが不十分。牧師という堅苦しい職業と聖職者に似つかわしくないセックスという要素を上手く調理できれば泣き笑いありのストーリーに出来た筈で、そうすればムロツヨシがもっと輝いただろう

上述したように脚本は決して褒められないが、シンプルな脚本は演技を堪能するには悪くないし、ムロだけでなく脇役陣がいい味を出していると思う。中田乃愛は演技はこれからだと思うが、凛とした雰囲気があって今後に期待したい

 

・ベイビーわるきゅーれ 3.5
兎に角アクション。まひろ役の伊澤彩織は女性ながら体幹の強さが感じられ、スピード感溢れるアクションを華麗にこなしている。ちさと(高石あかり)のアクションシーンもあるが、ちさとは演技担当、まひろはアクション担当って感じに思えた

また、殺し屋稼業のピリピリした雰囲気とは相反する日常シーンの緩さが面白い。全体的に小ネタが散りばめられているが、メインは日常シーン。緩い雰囲気でがっつりツッコミが入る訳ではないので、これに笑えるかどうかが映画の印象を左右しそう

難点を挙げると、まず序盤、台詞が聞き取れない。それから、もう少しシナリオを練れなかったものか。ガチッとしたシナリオがウリじゃないのは分かるが、終盤に上手く繋げて欲しかった。そうすれば中弛み感が解消されたかも

続編があるかわからないが、続編は映画よりも時間的に余裕があり組織や二人のバックグラウンドにも触れられる深夜ドラマで観たい