2021年に視聴した映画短評(その5)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・Mank/マンク 2.0
策士策に溺れると言うのが的確であろう作品。白黒の画面は逆に今っぽく感じる。画面が全体的に暗いのは仕方ない所もあるが、おかげで登場人物の判別が難しくなっている。テンポからして当時の映画ではないし、素直にカラーで良かったと思う

この作品は「市民ケーン」の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツの視点で「市民ケーン」の舞台裏を描いた作品だが、この作品自体が「市民ケーン」のオマージュになっていて年季の入った映画ファンには堪らない作品だろう

ただ、終盤に盛り上がる感じでもなく、人物の掘り下げが不足している。マンクはアル中で皮肉屋で短気という褒める所のないダメ人間にしか見えないし、他の人物も気が短い人物ばかり。上述の登場人物の判別の問題もあって、同じような人物ばかりに見える

市民ケーン」を見ていた方が楽しめるだろうが、それより世界恐慌ニューディール政策(で、銀行を強制休業させ実態調査→預金保護)、1934年のカリフォルニア州知事選挙で庶民の味方シンクレアを富裕層の権益を守りたいハーストが潰しにいった当時の社会情勢を頭に入れておいた方がいい

 

・シカゴ7裁判 3.6
この映画の最大の見所と言えば、やはりラストシーンだろう。いくら現実を元にしたフィクションとは言え、判決を変えるのは流石に無理で別の見せ場が必要になる。ただ、このシーンは現実では裁判の途中で行われ、判事によってすぐ止めさせられたことは覚えておきたい

裁判映画なので画的には地味だが、正に悪代官の判事vs正義に燃える弁護士というベタ過ぎる構図に徐々に明らかになっていく事実、ショッキングな出来事はエンタメ性も十分で徐々に引き込まれていく。多少、やり過ぎな感があるが

この映画はベトナム戦争の頃の話だが、正直今でも驚かない。日本でも雀豪任期延長事件があったし。国民審査で辞めさせられた裁判官は0、政府が人事に強く介入しようとしている最中に家栽の人になろうとはしないのが現実だろう

この作品はNetflix制作なのでそのままの邦題になっているが、一応映画館でも公開されたしもう少し工夫が欲しかった。日本でシカゴ・セブンを知っている人は殆どいない筈で、このタイトルだとあまりそそられないと思う

 

ノマドランド 1.5
貧困を題材とした作品と言う点で「ミナリ」と共通しているが、「ミナリ」の方がテーマが明確な分まだマシだった。展開に乏しい点は共通だが

アメリカの雄大な風景と美しい音楽を楽しむ作品なのだろうが、ロードムービーと呼ぶには重すぎる作品。短気労働をしながら各地を転々とする様はタイトル通りノマドのようであるが、好き好んでノマド生活をしている人は少数な訳で

終始淡々と進む感じで盛り上がりに欠ける。終盤、いい話(?)っぽい語りが多くなるが、で?って感じで、この作品として貧困問題をどう捉えてどう解決していこうというビジョンが全く見えない。貧困を題材にした作品は数多いだけに、雰囲気だけの作品にはどうしても辛口になってしまう

 

・JUNK HEAD 4.0
とにかく映像が素晴らしい。キャラクターの質感はもとより背景、(苦手である筈の)動きに至るまでよく出来ていて、ストップモーションアニメの素晴らしさを堪能できる

反面、ストーリーはもう少し工夫が必要か。前半は正直退屈で、コンセプト先行で内容は二の次なのかと思ったが、この世界の秘密が明らかになるにつれ引き込まれた。あと、いくら続編ありきとは言え、ここで終わりか?と思ってしまった

それと、エログロ要素が結構あるのは人によってはマイナスかも。個人的には(低俗な)エログロと因果応報的な行動との対比が面白かった。言葉が違うという設定で字幕なのも人手不足を逆手に取っていて面白い

多少甘いかなと思うが、次回作の期待料込みでこの点数で

 

・テスラ エジソンが恐れた天才 0.5
テスラと聞いて思い出すのは磁束密度の単位か電気自動車の会社だろう。因みに自動車会社のテスラは本作の主人公であるニコラ・テスラの名に因んでいるが、会社とテスラとは全く関係がない

肝心の映画の内容だが、はっきり言ってゴミ。薄っぺらで悪ふざけが過ぎる。テスラじゃ地味だから何か盛り上がる要素を適当に追加でって感じなのだろう。だったら最初から映画化しなければいいのに

ストーリーとは関係ないのでネタバレしてしまうと、ソフトクリームだけでも失笑モノだが、ルール・ザ・ワールドは失笑を通り越して打首獄門級だろう。いくら懐メロとは言え、テスラが亡くなって40年以上後の曲だもんなあ。バカにするにも程がある

こんなノリなので当然テスラの業績を掘り下げるような内容ではなく、J・P・モルガンの娘との恋物語にかなりの尺を割いているし、現代と過去を無駄に行き来する構成では世界観に浸れない。現代パートでテスラの研究が今のどの技術の礎になっているか説明するなら分かるのだが、勿論そんなものはない

イーサン・ホークのテスラ以外に何も見どころはないので、イーサン・ホークのファン以外にはオススメできない作品