2023年に視聴した映画短評(その8)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

今回は2022年に公開されたアニメ映画特集

 

・私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ 2.5
椋木ななつの同名コミックの劇場アニメ化で、2019年にはTVアニメ化されている

内容的には日常系アニメの劇場版あるあるで、夏休みの旅行記でちょっとしたトラブルがありつつって感じ。上映時間60分台なのもあって内容は薄めだが、ダラダラとした展開よりはいいか。長瀞の観光名所やイベントを巡るので、実際に旅行に行った気分になれる

基本的には旅行記だが、それぞれの"カップル"が関係を深めていく様子に重点が置かれている。その分、毒のある発言が少ないのは残念な所。可愛さでオブラートに包んだ毒がわたてんの良さだと思うのだが

その中でも松本は相変わらずだが、できれば"答え合わせ"して欲しかった。他のシーンにも出てきていたと思うし

わたてんを知らない人が見るとは思えないが、出来れば原作やTVアニメを観てからの方がいいだろう。超絶作画ではないが十分なレベルだし、スタッフも多くがTVアニメ版と共通なので安心感がある。似非声優が子供を演じると、かなり酷い演技になりがちだし。作品名は出さないけど

 

・すずめの戸締まり 2.7
君の名は。」「天気の子」に続く新海誠監督の長編アニメ映画。冒頭の十数分も予告編も悪くなかったので、終映前に駆け込み視聴することに

東日本大震災と日本の民話や神話をベースにしたファンタジーの融合は川面真也監督の「岬のマヨイガ」があるが、岬のマヨイガ柏葉幸子の小説をベースにしているのに対して、本作はアニメオリジナル

似ている点もある両者だが、大きく違うのは本作はボーイミーツガールからのロードムービーである点。前2作より恋愛要素は弱めだが、ストーリー上、鈴芽が草太に本気になっていく様はきちんと描いて欲しかった

一方、ロードムービーにしたのは大正解だと思う。作画の良さが活きるし、ストーリーのテンポも良くなる。作画の良さを活かすならバトル物でもいいが、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」等ライバルも多い。本作にもバトルシーンはあるが、そこには重きを置いていないだろうし、特に見どころはない

相変わらず話が”薄い”が、多くの層を対象とすると深い話にはできないだろうし、某任天堂動漫に比べればマシ。ただ、ダイジンの行動原理とか最後まで観ても謎の要素が多いので、「戸締まり」についてはもっと説明が欲しかった

それと相変わらずリアルとファンタジーの噛み合わせが悪い。前作よりはマシだが、ストーリーの本筋に関係ない所でリアリティに拘ってストーリー展開が苦しくなる新海誠マッチポンプ劇場は本作でも健在だ

「天気の子」が酷すぎただけで、本作はアニメ作品としては普通。しかし脚本力のなさは相変わらず。プロットは悪くないと思うので、次回作こそ新海は原案のみで脚本は他の人に任せて欲しい

 

・夏へのトンネル、さよならの出口 2.2
八目迷による同名小説のアニメ映画化。夏xボーイミーツガールはジュネリック新海臭が半端なくクオリティに不安しかないが、そもそも新海…

上映時間は83分と短め。カオルとあんず以外の話以外は殆どカットしたと思われる(筆者は原作未読)。テンポが良くて見やすくはあるのだが、後述するように弊害もあってやり過ぎだと思う

本作のSF要素はぶっちゃけおまけ。ウラシマトンネルの仕組みを二人で調査して…って内容だが、結局ご都合主義って感じだし。そもそもあんずが参加したのはカオルに好意を寄せているからと考えるほうが自然で、ウラシマトンネルを口実にしたラブストーリーが本線だろう

作画はそこまで良くはないが、印象に残るシーンは気合を入れている感じ。ただ、全体的に動いているシーンがイマイチ。バトルアニメ程アクションシーンは重要ではないが、走っているシーンはストーリー上重要だしもっと頑張って欲しかった

キャストだが、カオル役は鈴鹿央士。本作のアニメ制作会社であるCLAPの前作「映画大好きポンポさん」の新人女優役に比べれば遥かにマシだが、本作はラブストーリーな上に大半がカオルとあんずの絡み(エロい意味ではない)、あんず役とは演技力に明らかに差があるし、正直お呼びでない

あんず役は飯豊まりえ。花澤香菜の大人モードっぽい声はキャラに合っているし、人当たりが良くないがカオルの前ではデレることもある可愛い一面も演じられていたと思う。泣くシーンとか物足りない所はあるが、これだけ演じられれば”普通は”文句は言われないだろう。ざーさんの初期の頃とかねえ…

但し、本作は演技に依存する所が大きい。最後のシーンで泣けるかどうかが本作の評価に繋がると思うが、そこまでの過程を端折っている。川崎らクラスメイトとの絡みをカットしているのであんずが一目置かれる存在であるという印象が薄いし、失踪後あんずが葛藤する描写が足りないので話にタメがない

本作は先に声を録音して画を合わせているらしいが、そこまでするなら素直に本職の声優を声優を使えばよかったと思う。この脚本であんず役で泣かせるのは本職でも苦労しそうだが、少なくともカオルは明らかに鈴鹿央士よりはいいでしょ

どうしても芸能人を起用してサクサク観れる話にしたいのなら、(見捨てる)バッドエンドにすれば良かったと思う。それなら葛藤する描写もいらないしね。ただ、それだと原作ファンが怒り出しそうで脚本を押し通す勇気はないだろうなあ

 

・『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』 0.0
乙野四方字の同名小説を2作同時に映画化。極刑評価につきボロッカスに扱き下ろすことになるので、ファンは回れ右。作画ダメ、脚本ダメ、声優ダメの本作じゃこれ以外の点数は考えられない

両作は共に主人公である暦の一生を描いているが、「僕が~」は両親の離婚後、母に引き取られたケース、「君を~」は父に引き取られたケースで両者には関連性がある。両方観ることでお互い補完しあって見えてくるものがあるらしいのだが、当方には不協和音しか聞こえてこなかった

両方観ての率直な感想は「一作に纏めろ」。両者に共通するシーンがあるのは当然だと思うが、まさかの完全使い回し。同じように見えても微妙に違っていたり、異なる視点からの映像にするのが筋だと思うが。1作分のエネルギーで2作分の収入ってことだろうが、クオリティは2作で0.1作にも満たない

「僕が~」と「君を~」のどちらを先に観るかだが、どっちもゴミで片付けては身も蓋もないので一応触れておくと、ストーリー的には君、僕の順だろう。先に僕を見ると、映画の終盤はまだ見ぬ第1ヒロインの話になるので「は?」だろう。君が先だと暦の栞に対する思いが分かっているから唐突感は和らぐ

ただ、君が先だと僕の冒頭で長々と使い回しを見せられることになるのでその時点で観る気が失せるかも。それと君では両作の理解に必要な用語の説明があるのだが、台詞を読むだけで説明になっていない。原作未読勢で理解できる人はいるのかね。折角アニメ化したんだから、図や動画で説明するのが筋だと思うのだが

ダメ押しで話が薄っぺらい。100分足らずで人の一生を追おうとすると中身が薄くなるのは当然で、両作とも主に青年期にフォーカスした話になっているのは悪くないと思うが、使い回しの紙芝居に如何に上手く繋ぐかだけがミッションで、SFとしても恋愛ものとしても核がない感じ

次に作画。両作は「僕が~」はBAKKEN RECORD(タツノコプロ)、「君を~」はトムス・エンタテインメント(/第6スタジオ)と異なるアニメ制作会社が手掛けている。脚本家こそ共通だが、監督も両作で異なっている。これがどういう悲劇を引き起こすか、分かる人には分かるだろう

全体的に映画としては物足りないが、背景には違和感はない。知らない場所もあるが、元大分市民目線でここかって分かる。ただ、記憶とは若干違う所も。まあ、筆者が住んでいたのは大分駅が高架化される前だったので変わっていても不思議ではない

問題はキャラデザ。君を~の方は普通だが、僕が~は顎が『学園ハンサム』。栞は「僕が~」の世界から来たキャラに顎で刺殺されたんじゃないの。冗談はさておき、顎の長さがシフト量を表しているなら面白かったのだがそういうこともなし

最後に声優。例に漏れず似非声優を大量に起用しているが、主要役に限らず脇を固める筈の面々も中々の酷さ。全員纏めてぶった斬りにしたい衝動に駆られるが、脇役に厳しいことを言うのも違う気がするので主要役の青年期の声を担当した3人だけにしておく

和音役は橋本愛。声も演技もキャラに合っていて及第点。ただ、和音も『夏へのトンネル、さよならの出口』のあんず同様、ツンデレキャラだと思われるので、デレの演技もして欲しかった。まあ、”学芸会級”声優揃いの本作で演技に要望を出せるだけでも素晴らしいと言える

で問題児2名だが、主人公の暦役は宮沢氷魚。本業の俳優業でも演技力に疑問符がつけられることが多い彼が、声優として素晴らしい演技をする訳もなく…。少年時代は少年役に定評のある田村睦心なので、田村睦心宮沢氷魚のスイッチは奈落の底に落とされたような絶望感を味わうことになる

栞役は蒔田彩珠。『神在月のこども』でも拙い演技を見せていたが、演技力に進境は見られず。『神在月~』と違ってキャラに声が合っているし、周りも”学芸会級”声優なのでマシに思えるだけ。2度めでこの演技では声優の資質はないだろう。大物監督の映画にも出演しているし、女優業に専念して欲しい

 

かがみの孤城 2.3
わりと高評価が目立つ本作だが、辻村深月原作映画は「朝が来る」は良かったものの「ハケンアニメ!」はイマイチ。原恵一監督作品も「バースデー・ワンダーランド」がイマイチで正直不安しか無いが、果たして

感想を一言で言えば、「もう少し何とかならなかったか」が正直な所。原作は悪くないんだろうが、盛り上がらんのよねえ

本作の良い所は不登校の問題に対して原則論を振り翳さない所。この手の問題を扱うと、「義務教育なんだから行くのが当たり前。フリースクールみたいな逃げはいらない」的な考えを持つ人は未だに少なからずいる筈で、そういう人に配慮してなのか結論を暈しがち

フリースクールは勿論、転校、留学、学校に配慮を求める等、現実な選択肢を提示し、それぞれが適切な道を選ぶ様は、同様の問題で悩む親子に勇気を与えると思う

ただ、本作で褒められるのはこれだけ。2時間弱の作品なので各々のエピソードを掘り下げるには時間が足らないと思うし、子供が興味を惹く内容として謎解きを含むファンタジー要素をメインに据えたのは悪いとは思わない

しかし、その謎解きがねえ…。徐々に事実が分かっていくのは悪くないが、”ヒント”過多で答えが先に解ってしまい、それがダラダラ感に繋がっている。答えが分かってもアニメ的に盛り上がるならいいと思うが、残念ながらそうではない。謎解きについては別記事に纏めたので、興味があれば

作画は全体的には普通と言いたい所だが、見せ場である筈のシーンの作画が頂けないのは凄く印象が悪い。ガラスが割れる所とか光っている部分を通り抜ける所とかリアリティに欠けるシーンが続く。まあ、この後の紙芝居で光っている部分の面積は関係ないって分かるのだが

ここから◯◯に会いに行くまでが本作のファンタジーとしての見せ場で作画も頑張らなければいけない筈だが、迫力に欠ける。城自体がショボいのも原因かも知れないが、城がショボいのは”ヒント”になっているのかも

キャラデザは悪くないし、各々が色んな服を着ているのはらしさの表現としていいと思う。服装には重要なヒントも隠されているので、よく観ておいた方がいい

キャストについては例に漏れず似非声優多数起用なのだが、本作が最悪なのはメインの7人が似非声優と本職声優のブレンドになっていること。正直、物凄く違和感がある

マサムネ役の高山みなみは全体に合わせたのか抑えた演技で好印象だが、あの台詞…。問題なのは、ウレシノ役の梶裕貴。お前が目立ってどうすんだって感じ。そもそも素人と混ぜようとするのが最大の問題ではあるが、花江夏樹とか癖の強いタイプは絶対に合わない。当に”混ぜるな危険”

他の5人の内、アキ役の吉柳咲良とリオン役の北村匠海は及第点。フウカとスバルにはお情けで目を瞑るにしても、こころは主人公で明らかに出番が多いのにこれではねえ。オーディションは何を基準にしたのかと言いたくなる。声が合っているだけマシだが、アキ位の演技は見せて欲しかった

あと、他の人のレビューを見るとオオカミさま役の芦田愛菜が話題になっているが絶妙なキャスティングだと思う。オオカミさまを芦田愛菜が演じていること自体がかなりのヒントだもんなあ。過去に声優の経験も多いから、演技も問題はないし

ついでに劇伴や主題歌もイマイチ。曲自体にインパクトがないのもあるが、変なタイミングでかかったりするし曲調も場面に合っていない。恋愛要素が無い訳ではないが、主題歌も本作の世界観にマッチしていない。効果音も上手く使えているとは言えないし、トロイメライ以外の曲の印象が全くない

ぶっちゃけ大人が観るには物足りない作品だと思うが、小学校5,6年生~高校生辺りの人が見るんだったらキャラに共感できるだろうし、やり過ぎと思える超親切な謎解きも丁度いいのかも知れない

 

2023年に視聴した映画短評(その7)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

 

・とつくにの少女 1.8
ながべの漫画を原作にクラウドファンディングで資金調達して作られたOVA作品。アマプラでは3話に分割されているが、元々は分割されていないと思われること、それと本作は2022年の作品だが、アマプラでの配信開始は2023年なので本年度の映画扱いとする

作画は素晴らしいデキ。今時のクッキリとした画ではないが、きっちり描き込まれた絵画のような画は本作の世界観を体現している。流石、作画に定評があるWIT STUDIOの作品だ

ただ、ストーリーはねえ…。70分弱だと30分アニメ3話+αなので話が進まなくても仕方がないとは言え、初見勢置き去りは如何なものか。本作の設定についての言及が皆無なので話についていけずに何となく終わってしまう。そもそもタイトルの”とつくに(外つ国)”だってピンとこないしねえ

こう書くと原作ヲタが発狂して「だったら原作を読め」と言い出しそうだが、順序が逆。配信は新たな客をつかむチャンスなんだし、説明パートを足す位はすれば良かったと思うが。出資した人の中には配信反対もいるだろうし、ヲタク心理を逆なでするようなことはできないってか

人外のおじさんと少女のロードムービーは「魔法使いの嫁」っぽい感じだが、上述のように内容は初見殺しのファンディスクなので原作ファン以外にはオススメできない

 

・レジェンド&バタフライ 1.5
東映創立70周年記念作品。今年1月に劇場公開された作品を5月に配信開始することになるとは、関係者にとっては寝耳に水だろう。今年ワースト級の駄作ではないものの、普通につまらない凡作って感じ

本作を一言で言えば中途半端。主演にキムタクと綾瀬はるか、タイトルは英語。織田信長を取り上げた作品は山ほどあるし、新機軸で時代劇を観ない層にアプローチしたいのは分かるが、これではねえ。タイトルのバタフライが帰蝶(濃姫)に因むことにも気付かないだろうし

まず上映時間が長すぎる。信長の半生を網羅するには短すぎるが、この内容にしては長すぎて飽きる。特に濃姫の出番が少なくなる後半は退屈

もっとエピソードを取捨選択すべきで、ぶつ切り感が半端ない。織田信長を知らない人は極少数だろうが、この内容についていくにはそれなりの知識が必要。浅井(あざい)長政とか松平(イントネーション)とか、時代劇を観ない人には違和感があるだろう

じゃあ時代劇ファンにとって満足のいく作品かと言えばそうではないだろう。エピソードぶつ切りもさることながら、史実無視、合戦シーンは殆どなし。殺陣も少なく、しかも貧民を殺めるというトンデモ。脚本は「どうする家康」で絶賛炎上中の古沢良太だし、そっぽを向かれて当然だろう

織田信長は世間的には亭主関白なイメージだろうから嬶天下なのは面白いと思うし、もっとラブコメ色を全面に出して、最後も夢オチとか寒いことをせずに本当にタイタニックで良かった。それと綾瀬はるかはアクションバリバリだし、女剣士として活躍させても良かったかも

それができないのは時代劇ファンを怒らせたくないという意図もあるだろうし、キムタクへの忖度もあるのだろう。ただ、この内容でも怒り狂う時代劇ファンは多いと思うが

キャストでは綾瀬はるかと各務野役の中谷美紀は安心して観ていられる。それに引き換え木村拓哉…。キムタクしか演じられない男と時代劇との相性は最悪。どうしてもキムタクに拘るなら、現代風のぶっ飛んだシナリオにすべきだった

それとキムタクに隠れてはいるが、明智光秀役の宮沢氷魚もねえ…。そもそも明智光秀が合っていないと思うし、森蘭丸の方が良かったかも

ぶっちゃけキムタクファン以外にはオススメできない作品。それから効果音や音楽に対して台詞が聞き取りにくいので字幕をオンにすることを推奨する

 

・別れる決心 1.0
噂されたアカデミー作品賞はノミネートすらされなかったが、カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞。映画賞は娯楽性の強い作品は受賞しにくいことを考えると、受賞するようなサスペンスってどんな作品なんだろうって思ってしまう

本作は珍しく日本語吹き替え版も用意されていて、配信でも日本語版を選べるが、当方は字幕で視聴

正直、配信で良かった。韓国サスペンスとしてはワースト級だろう。韓国サスペンスの良さであるキレは皆無で、終始モヤッとした感じ。回想多用でテンポも悪い

じゃあラブロマンスとしてはどうかと言えば、こちらもねえ…。タイトルの意味を含めスッキリしない。ソレを悪女として描きたくないようだが、寧ろバビロン(アニメ)の曲世愛級の悪女の方がサスペンスとの親和性が高かったと思う

監督としては韓国サスペンスの固定観念を打破するような作品を作りたかったのだろうが、サスペンスとしてのデキの悪さがラブロマンスの足を引っ張っているように思える。ありがちな失敗作って感じ

本作は韓国サスペンス好きには全くオススメできないが、ラブロマンスは昭和のメロドラマの香りがするので、そういうのが好きな比較的上の年齢層にはウケるのかも知れない

 

・テリファー 3.0
日本では劇場未公開であったが、続編の「テリファー 終わらない惨劇」が劇場公開されることを受けて本作も劇場公開された。が、小生はアマプラで視聴

本作のウリはグロさだろう。最近(製作は2016年だが)の作品にしてはかなりキテる。悪趣味な殺戮シーンは耐性のない人には無理だろう。まあ、R18+のホラー作品を耐性のない人が観るとは思えないが

アート・ザ・クラウンは不気味さといいなかなかのキャラではあるが、ピエロはホラーではど定番だし、ジェイソンやフレディ等、往年の殺人鬼達と比べると流石に物足りなく感じる

ストーリーはツッコミ所しかないって感じ。最後に無理やり伏線回収して続編への布石としているだけだしね。ただ、ホラーに緻密な話を求める人は少ないだろうし、上映時間が短めでテンポが良く、構成には工夫があるのでそれなりに楽しめる

 

・テリファー 終わらない惨劇 1.5
2016年に公開された「テリファー」の続編。(ホラーにしては)長い上映時間(138分)はストーリーがお留守になりやすいホラー映画だとマイナスに作用する予感しかしないが…

グロさは相変わらずと言うか前作よりもグロいが、殺し方に芸が無い。ワンパターンなんだよなあ。「全米が吐いた」のキャッチフレーズ通り、兎に角グロいシーンを観たいという人にはいいのだろうが

上映時間が長くなった分展開にメリハリができれば良かったのだが、残念ながらそうはならず。ストーリーに関係なかったり、関係あっても中途半端なエピソードばかり。アート・ザ・クラウンの素性とか何故、この姉弟を狙うのかとか肝心なことは不明だから、単に間延びしただけになっている

最終決戦(?)の超展開も最早失笑すらできないのだが、もう少し父の話を膨らませて丁寧に話を紡げば一味違うホラーになったかも。なろう(私TSUEEEEEEEEEEEEE)系ホラーとか。ホラーに緻密なストーリーを求める人は少ないと思うから相性は良さそうだけどね

全てにおいて前作より劣化していて、正直時間と金の無駄。終わり方からして続編が作られるのだろうが、スタッフに大幅変更でも無い限り次は観ないだろう

2023年に視聴した映画短評(その6)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

 

・ロストケア 2.8
原作は葉真中顕の小説「ロスト・ケア」。PLAN75とか茶飲友達とか高齢者問題を取り上げた作品が上映されるようになったのは、それだけ今の日本が直面する大問題と言う事だろう。尤も、嫌な現実は直視しないのが今の日本だが…

原作未読だが、大幅な原作改変が行われたのであろう。長澤まさみが演じる検事の大友秀美と松山ケンイチが演じる介護士の斯波宗典の対決を前面に押し出したのは、二人が直面する介護問題のコントラストと共に本作のテーマを浮き彫りにしていて悪くないと思う

ただ、褒められるのは裁判のシーンまでで、そこからはかなり酷い。一言で言えば冗長。泣かせたいのは分かるが、本作のテーマはお涙頂戴じゃないでしょ。まあ、泣けるシーンが好きなのは日本人だけではないが

それと足立由紀は流石にないわ。事件にショックを受けて介護の仕事を辞めるのは理解できるが、風俗はねえ…。ここまで描くなら彼女の心境の変化を丁寧に描かなければいけないと思う。単にネームプレートを外すだけで良かったと思うが

他にも冒頭で大友が現場に赴くシーンでもあんな高いハイヒールを履いていく奴がいるのかって思う。増しては、長澤まさみ位の身長の女性は普段からヒールはあまり履かないだろうし

そもそもいくらフィクションとは言え検事が捜査するのは不自然だしね。警察が関わると、大友vs斯波の対決色が薄れるのもあるのだろうが

キャストではとにかく松山ケンイチの演技力が光る。ただ、松山の演技力を引き出したと言えるのは父親を演じた柄本明の演技で、この状況を見せられると斯波宗典の屁理屈も宜なるかなと思わせる

原作改変は悪くないが、どうせならもっと緻密に作って欲しかった。最近、高齢者問題を扱う作品が増えているから目新しさもないし高評価はつけられない

 

・ハマのドン 4.0
自民党の有力政治家とも面識があるなど政財界に太いパイプを持ち、長い間港湾事業者のボス的存在であったことから「ハマのドン」と呼ばれた実業家、藤木幸夫に迫ったテレビ朝日製作のドキュメンタリーの映画版

内容的には手堅い作り。IR賛成派であった藤木が反対に転じた理由に始まり反対運動の様子を追ったのがメインであるが、藤木の過去にも触れていて個人的にはもっと時間を割いて欲しかった。ただ、カジノ反対運動がメインだと考えるとバランス的にはこれが精一杯かも知れない

藤木は少年時代からエネルギッシュだったようで、藤木の創設した少年野球チーム「レディアンツ」は今も続いていて、藤木がいた頃のレディアンツは野球だけじゃなく政治や社会についても語っていて志の高さを感じさせる。まあ、お父さんの影響が大きいのだろうけど

そんな藤木が父と同じく港湾事業者になり、労働者たちがギャンブルで身を滅ぼすのを見てきたから山下埠頭をギャンブルの街にしたくないと言うのは理解できるが、だったら最初は賛成だったのは何故なのかに迫って欲しかった。自民党員だから自民党の政策には基本的に賛成では筋が通らない

IR反対の理由としてギャンブル依存症の問題が取り上げられるが、だったらパチンコはどうなのかと。IRがパチンコ屋ほど増殖するとは考えられないし、パチンコに比べると敷居が高いだろうし

個人的にIRに反対する理由はカジノ=儲かるではないってこと。作中でもアトランティックシティの惨状が取り上げられているが、アトランティックシティはニュージャージー州の都市でニューヨークからも近い。当に東京に対する横浜みたいな関係で、立地条件だけでは成功できない

カジノ=儲かるはソシャゲ=儲かる並の妄想でしか無い。実際、ソシャゲ業界はサクラなんちゃらが大爆死する等、死屍累々なのが現実。パズドラとかFGO等、古参が強く、新興勢力が台頭するには原神やウマ娘クラスのハイクオリティは勿論、運も必要だ

世界的な景気動向にも左右される上にオンラインカジノやパチンコ等、ライバルも多い。原神やウマ娘を生み出すビジョンがあるなら別だが、トランプの言いなりで上前をはねたいだけの政治家が考える政策が成功する確率はMEGA BIGで12億円当てるより低いと言わざるを得ない

事業者にちゃんと撤退資金をプールさせるとか、20年なり30年なりの事業継続保障をつけさせるなんて内弁慶の日本人ができる訳ないし。山下埠頭が鬼怒川温泉化して喜ぶのは廃墟マニアだけ

本作はIR問題の本質に迫る内容ではないので、IR絶対反対の人には物足りないかも。見た目が強面の藤木が菅や小此木に圧力をかける様子は任侠映画を観ているような迫力なんだろう

 

・ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 1.5
多くの人が知っているであろうゲーム、スーパーマリオブラザーズの映画化。アニメ制作は「怪盗グルー」「ミニオンズ」「SING」等で知られるイルミネーション・スタジオで、マリオの生みの親、宮本茂の名前も製作にクレジットされている

作画は流石イルミネーション・スタジオと言える素晴らしいデキ。原作がゲームだし、3DCGもマッチしている。ただ、アクションシーンはイマイチなので折角の作画の良さが活きているとは言い難い

ぶっちゃけストーリー的には「内容は無いよう」。マリオシリーズには数多の作品があるが、基本アクションゲーム。ストーリー性は皆無で、本作を視聴する人も緻密なストーリーに期待している人はいないと思うが、もう少し何とかならなかったかねえ。無駄にダラダラ長いよりはマシだが

世界観がファンタジー寄りって言うのもあろうが、全体的に緊迫感がない。ゲームと違い自分で操作している訳ではないので俯瞰で観てしまうのも原因か。やはりストーリーで惹きつけるものがないと。(弱キャラで有名な)スペランカーの映画化なら緊迫感がありそうだが

それとキャラの性格付けはどうなのかね。何かピーチ姫が和◯◯◯子かって言う位強そうなんだが。もし結婚したとしても尻に敷かれそうだw

挿入歌にHolding Out for a HeroやTake On Meが使われる等、本作は”ライトなおっさん(おばさん)ゲーマーとその家族”を狙った作品であってディープなマリオヲタは眼中にないのだろう。これから視聴する人も多いだろうが、ファンムービーとしては物足りないと思っていた方がいい

 

ブラフマーストラ 3.5
全米映画ランキング初登場第2位を記録した作品らしいが、IMDbの評価は5.6と高くなく、日本での評価もイマイチな模様。小生の感想を交えつつ、その理由を探っていきたい

本作の邦題はブラフマーストラだが、原題はBrahmastra Part One:Shiva。三部作(予定)の一作目の位置付けであることを隠すのは営業戦略なのかね

本作の映像のクオリティは十分高いと思う。ただ、VFX多用の画作りはアメコミ映画を観ているようで、バーフバリシリーズやRRRの様な圧倒的なスケール感はないのでインド映画の画としては物足りなさを感じる

アクションも悪くないのだが、VFX多用の物足りなさに加えて若干まどろっこしい所がある。主人公のシヴァは漸く自分の力を知り、研鑽に励んでいるという設定なので仕方ないとは思うが

インド映画と言えば歌と踊りだが、最近の作品同様少な目。序盤のダンスシーンは迫力もあって高クオリティ。もう一つの要素の(強引な)恋愛も健在。ヒロインのイーシャ役はRRRにも出演していたアーリアー・バットだし、石◯◯一じゃなくても声くらいかけたくなるわな

上映時間167分はインド映画としてはこんなものだが、インターミッションを意識してなのか話が後半に偏り過ぎで、前半が水増しに感じる。三部作の一作目なんだし2時間ちょいくらいで収められなかったかね

水増しを抜きにすればストーリー自体は面白いし、三部作の一作目にしては寧ろ纏まり過ぎているまである。但し、誰もがそう思えるかと言えば、そういう作品ではない

作中で最低限の説明はあるが、多くの人は固有名詞ラッシュに苦しむことになりそう。本作固有とインド神話の要素を区別できる位の知識が欲しい所。インド神話の神々が出てくるゲーム等をプレーしている人ならついていけると思うが

結局、評価が低いのはRRRと比較すると特に映像面で見劣りすること、インド神話に馴染みがないので話についていけないのが大きな要因だろう。海外展開を意識するなら、神話要素はバーフバリシリーズ位に留めておくのが正解なのだろう

まあ、一作目としては悪くないデキだと思う。今後、どう風呂敷を広げて綺麗に畳むことができるのか、お手並み拝見ってところか

 

・search/#サーチ2 4.2
原題はMissing。5年前の作品「search/サーチ」で監督を務めたアニーシュ・チャガンティは製作で、編集を担当したウィル・メリックとニック・ジョンソンが共同監督。ストーリーに関連性はないので、前作を見ていなくても問題はない

サスペンスとしての完成度は前作以上。前作は明らかに無理があったからねえ。序盤の話も伏線になっているので、ちゃんと覚えておくべし。まあ、前作を見た人なら注意深く視聴すると思うけど

主人公のジューンは高校生でデジタルネイティブ世代なので様々なツールを駆使しての捜索を行うが、テンポが早くそのツールについての説明等は無いので、最近の技術にはついていけないって人には辛い内容かも

反面、今回はPCの画面100%ではないし、完成度が上がった分前作ほどのインパクトはない。ただ、100%に拘る必要はないと思うし、また5-10年後にその時代の技術や世相を反映した続編が作られればと思う

2023年に視聴した映画短評(その5)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

 

・バイオレント・ナイト 2.0
「ブレット・トレイン」「Mr.ノーバディ」好きは観てって同作で製作を(「ブレット・トレイン」では監督も)担当したデビッド・リーチ繋がりってことなのだろうが、正直イマイチな出来

一言で言えば、何が売りなのかがハッキリしない作品。サンタは戦闘力ゼロ(?)にしては強すぎるし、と言ってアクションを売りにできる程ではないし。まあ、秘めたる戦闘力の秘密は作中で明かされるが

ストーリー的にもそこまでぶっ飛んでる訳じゃないしねえ。前半はきちんと伏線も回収しつつ、殺生もアクシデントって感じだが、後半は無駄な殺しやグロシーンが多くて何だかなあって感じ。オチを含めて、特に後半は好き嫌いが分かれるだろう

 

・妖怪の孫 2.5
「パンケーキを毒見する」の内山雄人監督による政治ドキュメンタリー第2弾。パンケーキ~は菅義偉に迫ったものだったが、本作のターゲットは安倍晋三。妖怪とは「昭和の妖怪」と呼ばれた母方の祖父である岸信介のことで、安倍晋三岸信介の孫にあたる

パンケーキ~に比べれば纏まりがあるとは思うが、もっとフォーカスを絞った方が良かった。安倍と岸を比較するパートもあるが、「2887」みたいに安倍の政策をいくつかピックアップして、それらについて安倍と岸に共通する所とそうでない所を纏めた方がタイトルに相応しかったと思う

前作同様複数のパートから成っており、各パートの間にアニメが挟まるがデキはイマイチ。諭すような内容で前作みたいに皮肉が利いていない。ネトウヨにも観て貰いたいのだろうが、YouTubeでタダで日本礼賛動画を飽きるほど観られるのに態々金を払ってまで本作を見るとは思えないが

ネトウヨは置いておくにしても、本作がどういった客層をターゲットにしているのだろうと感じた。パンケーキ~はもっと政治をフランクに幅広い客層に観て欲しいというメッセージ性があったと思う

その一端が日本会議で、日本会議を知っている人はどれだけいるのだろうか。普段、政治に興味がない人ならまず分からないだろう。しかも日本会議について掘り下げる訳でもないし。旧統一教会とか自民党を取り巻く団体については別の作品でやるべきだっただろう

それと内容がいい加減。原発反対は結構だが、原発が利権塗れだから止められないのは本当なのか。太陽光発電も既に利権塗れで(原発同様)助成金を垂れ流すことになりそうだが、それについては何の問題もないのだろうか。まあ、本作を見るのは反安倍が殆どだろうから、それ以上ツッコむ人は皆無だろうが

ぶっちゃけ安倍に迫るんなら、何故安倍政権が長期政権になったのかに触れないと。作中で自民党のネット戦略について触れているが、それが長期政権の鍵かと言われるとねえ…

山口県第一の都市とは言え人口減少が著しい地元(下関)に利益誘導しているとも、旧統一教会についても朝鮮学校への支援打ち切り等必ずしも優遇しているとは言い難いのに何故彼らが支持し、選挙に勝ち続けたのか。それを分析すればネトウヨにとっても見応えのある作品だったと思うが

最後に少し位褒めておくと、パンケーキ~同様、普段政治ニュースをこまめにチェックしている人でも知らないような内容に触れていてちゃんと取材しているなとは思った。ただ、本作はそこまで反安倍色の強い内容ではないと思うが、それでもアベヲタがみたら発狂するかも知れないし見る価値は乏しいかも

 

・セールス・ガールの考現学 3.0
自身初のモンゴル映画視聴。アダルトショップの店員を描いた作品でセンシティブなシーンがあって当然、それをどう表現するのかに注目していた。アジア各国は規制が厳しい印象があるが…

ぶっちゃけエロシーンは少な目。ただ、使用するシーンを含めて大人のおもちゃなんかも出てくるので、家族連れで見るような映画ではない。まあ、本作を上映しているのはミニシアターなので家族連れでは行かないと思うが、全年齢向け作品なので一応触れておく

ストーリーは正直粗だらけ、そもそもギブスでも店番位出来そうだしね。大学には通っているのだし。犬に○○○○○を飲ませたりトンデモシーンも多いが、コメディとして中和している。ただ、ゲラゲラ笑うよりはシュールな笑いって感じ

モンゴルの人気シンガーソングライターであるMagnolianのヒット曲だけでなく懐かしの洋楽も使われている。本作のテーマは異世代交流だろうし、曲もそういう観点から選ばれたのだろう。ただ、若者が観るにしては本作のテンポは悪過ぎると言わざるをえない

カティア役のエンフトール・オィドブジャムツも貫禄があって良かったが、本作はサロール役のバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルの映画だろう。ジョゼ~に出ていた頃の池脇千鶴を思い出させる童顔だが、顔に反してグラマラスボディ

カディアと触れ合っていくうちに女としても大人になって垢抜けていく感じは役に嵌っている。本作が映画デビュー作らしいが、堂々とした演技で今後が楽しみだ

 

・不思議の国の数学者 3.8
数学者でもあったルイス・キャロルの生涯についての著書とは無関係。原題はIn Our Primeだしね。ただ、如何にも原作がありそうな話の完成度の高さ。悪く言えば、ありきたりな韓国映画っぽい脚本とも言えるが

テーマ的に数学は避けて通れず、当然数学のトピックスは出てくる。ぶっちゃけ数学はおまけみたいなもので深く掘り下げる訳ではないが、ネイピア数とかオイラーの公式とか高校数学レベルの知識はあるに越したことはないだろう。じゃないと数学をピアノで表現する糞映画って評価になりかねないし

キャストではチェ・ミンシクの存在感は確かで当にキム・ドンフィの父親って感じだが、チョ・ユンソがいい味を出している。脱北や苛烈な受験戦争等、韓国の問題を上手く取り込んで最後は感動シーンで纏めているのだが、やっぱり重い。バッド・ジーニアス的なノリで仕上げても面白かったかも

それと本作ではバッハの無伴奏チェロ組曲第1番が頻繁に流れるが、ハクソンが好きな曲という以上のエピソードがないのは残念な所。あとハクソンが数独をやっているシーンがあって、流石世界のSUDOKUって感じ

 

・聖地には蜘蛛が巣を張る 4.0
「ボーダー 二つの世界」のアリ・アッバシ監督作品。ボーダー~同様、ショッキングな映像と何とも言えぬ後味は健在だが、ボーダー~程のインパクトはない

Spider Killerと呼ばれたサイード・ハナイによる連続殺人事件をモチーフにしていて、原題のHoly Spiderもそれに因むものだろう

ストーリー的には犯人が捕まるまでだけではなく、捕まった後も描いていて二部構成のようになっている。視聴者には犯人が分かっているが捜査側には分かっていない古畑任三郎タイプの作品で、ミステリーではなく(クライム)サスペンス色が強い

正直ツッコミ所の多い作品で、シリアルキラー相手の危険な囮捜査もさることながら、お世辞にも劇場型犯罪指向で緻密とは思えない犯人を捕まえるのに何故手こずるのか。ハナイによる事件は2000-2001年にかけてのもので、今よりは技術は劣るだろうが科学捜査が普通になっていると思うのだが

しかし、本作はこういう異常な犯罪が罷り通る社会的背景の方に重きを置いていると思われ、性に関する意識や男女差別等の宗教的価値観や極度に世間体を気にする国民性、忖度は当たり前のパワハラ社会。日本にも共通する部分が多いと思う

ラストもここにこれを持ってきたかって感じで、ハッピーエンドや泣かせる話が好きな日本人には合わない作品だと思うが、個人的にはアッバシ監督の作風は好み。ただ、終始重苦しい雰囲気なので娯楽目的で観る作品ではないだろう

2023年に視聴した映画短評(その4)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0


・FALL/フォール 3.5
地上600mのTV塔に登って降りられなくなった女性2人が悪戦苦闘する様子を描いたワンシチュエーションもの。勿論、実際に600mまで登った訳では無いが、十分に「高さ」が感じられる風景はもし現実だったら○玉が縮こまる思いだろう。高所恐怖症の人にはきついかも

こんな鉛筆のような塔があるのかと思うが、サクラメント・ジョイント・ベンチャー・タワー(高さ625m)をモチーフにしているらしい。支線塔と呼ばれる塔で、斜張橋(横浜ベイブリッジ等)のように柱(塔)をワイヤー(支線)で支える構造

上映時間が短めなこともあってダラダラ感はない。TV塔に登り始めるまで早いしね。短い"準備期間"中は勿論、登り始めてからも張られている伏線を丁寧に回収していく意外(?)にも凝ったストーリー。ただ、ストーリーに拘ると突っ込み所も目立つのは確か

気付かねえのかよとか色々言いたくなるが、格好もねえ。「塔」だけでなく、二つの「山」を見せつけていくスタイル。季節は不明だが、地上600mで風があれば体感温度はかなり低そうだが。ハンターはかなりムチムチで「山」も高いのだが、こういう所まで伏線になっているんだよなあ

おじさんにはたまらないサービスショットが多いし、高所恐怖症じゃなければ気楽に見れる娯楽作品としてオススメできる

 

・Mad Heidi(マッド・ハイジ) 1.7
日本未公開のスイス映画だが、ネットで視聴可能(有料)。Heidiはヨハンナ・シュピリの小説より、日本ではアニメ「アルプスの少女ハイジ」と言うべきか。若い人には「家庭教師のトライ」のCMキャラと言えば分かって貰えるか

特にヨーロッパでは多くの国で放送された「アルプスの少女ハイジ」だが、有名なOP曲の「おしえて」等、日本版の主題歌は差し替えられて放送された国が多い。また、「アルプスの少女ハイジ」はスイスでは放送されていない。本家のプライドがあるのだろうか

豆知識はこれ位にして粗筋だが、チーズ企業の独裁政権下にあるスイスで、大人になったハイジがペーターを殺された恨みを晴らすべく、戦士になってリベンジする話

一言で言って中途半端。基本的にはおバカ映画なのだろうけど。独裁政権と言うとヒトラーナチスを思い浮かべるが、同じくヒトラーを題材にしたおバカ映画「アフリカン・カンフー・ナチス」と比べるとおバカ度が足りない。まあ、日本と欧米の感性の違いかも知れないが

おバカ映画として物足りないなら他の要素となるが、アクションシーンは正直イマイチ。ハイジ役の女優は眼力があって強そうなんだけどね。まあ、代役だから仕方ないか。それとゴアシーンが多いが、その割には大したことないし笑えもしないし。でも、苦手な人にはきつそうだし

ストーリー的にはバカになるチーズとか面白い要素はあるが、全体的に大人しすぎる。スイスのアイコンであるハイジを汚すことへの葛藤が感じられて萎える。どうせ怒られるんだから、もっと振り切って欲しかった

個人的には厳し目の評価だが、面白いってレビューもあるし日本でも2週間限定とかでいいので劇場公開すればいいと思うけどねえ

 

・エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 0.5
カンヌにせよアカデミー賞にせよ、ノミネートされる作品=面白いではないが、今年度のノミネート作品は酷いの一言。本作はかなり好みが分かれるタイプの作品で、6人いたら3人が面白い、2人がつまらない、1人が普通位になりそう

マルチバースMCU等の作品でお馴染みだが、内容的に必然性がないのに営業上、過去の作品でも商売する為の帳尻合わせに過ぎない印象。ただ、本作のマルチバースはそれ以下。ストーリー上必要性が感じられない上に、映像的な見どころも無い

ダラダラとしたストーリーを家族愛で誤魔化したという印象で本作に高評価を付ける理由がない。ストーリーに重きをおいていないのなら、もっとシンプルなストーリーでいいと思うが。ストーリーを追ってしまうから、小ネタも見逃してしまう

それと人様のレビューにケチをつけるのも何だが、本作をSFとして紹介するのは如何なものか。こんなんSFじゃないでしょ。まあ、本作をSFだと思って見に行く人は皆無だと思うが

関係者の忖度記事が目につくが、忖度記事ラッシュ=中身は?ってこと。興行成績ランキングの上位はアニメ作品ばかりだが、この手の記事に騙されてきたから実写映画に世間は反応しないんでしょ。話題性はあるのだろうが、こんなブルーチーズみたいな作品を日本でヒットさせるのは無理だろう

 

・茶飲友達 3.5
口コミで話題になった作品。実際にあった事件をモチーフにしているだけに生々しさがあるし、「高齢者と性」という尻込みしそうなテーマに向かい合う作品としては評価できる。面白い作品ではあるが、色々言いたくなる所が多いので点数の割には厳しい内容になるのでご容赦を

ダメな所を一言で言えば無駄に長い。各々のエピソードを掘り下げようとして、投げっぱなしになっている。特に問題なのは千佳の妊娠話。作中では触れていないが、二人の関係は?明らかに歳が離れているし、○交としか思えないのだが

また、出産の覚悟にしても明らかに甘い見通しなのだが、それを叱責するのがメインではない筈。他にもカヨのパチンコ依存症の話とか、とりあえず社会問題になっていることを安易に詰め込んだ感が否めない

それと法律に詳しい人物がいたが、実際の事件でもそうだったのだろうか。流石にこのサービスを無許可で提供するのはアウトだと思うのだが。本番の有無はともかく、内容的にはデリヘルで、それには風営法に基づく届け出が必要なのは自明なのだが

本作では高齢者と性の問題だけでなく拠り所のない若者の問題も描いているが、その二つだけで十分すぎる程のボリューム。掘り下げるのはマナと松子だけで、他の人達も訳ありなんだな位の描写で良かったと思う。まあ、実際の事件では運営側も老人だった訳だが

キャストではマナを演じた岡本玲も良かったが、主役は風俗嬢を演じた面々。ワークショップを経て選ばれたらしいが、堂々とした演技は人生経験の豊富さ故か

 

Winny 3.9
Winny事件を映画化した作品。本件といいCoinhive事件といい、日本がIT後進国であることを象徴している事件。まあ、ドブ板選挙でITとは無縁の政治家が人事に口を出しているんだから、出世に繋がらないIT技術を勉強しようなんて思う訳がないわな

本作一番の話題は東出昌大が主演していることだろう。本作が復帰作ではないが、復帰後一番の話題作と言えよう。唐田えりかの復帰作も公開されるし、いつまでもネチネチと言うことではないと思うけどね

東出演じる金子勇は浮世離れした如何にも学者肌な人物って感じ。三浦貴大演じる壇俊光弁護士は熱血漢な印象。実際の容姿に寄せていることもあって、本当にこういう人物だったのだろうなと思わせる。まあ、美味しい所は吹越満演じる秋田弁護士が持っていった感があるが

本作は地裁での判決までを段階を経て描いているので、人質司法と揶揄される日本の司法の問題点が浮き彫りになる。また。素人の裁判官に技術的な話を分からせる必要があることもあって、この手の話に疎い人にも分かるように噛み砕いているのはいいと思う。これでも分からんって人は多いだろうけど

本作の不満点は大きく2つ。1つ目は愛媛県警の裏金問題と抱合せにした点。Winny事件との関連性が薄い上に中途半端な扱い。告発した仙波敏郎巡査部長はこの後波乱万丈の展開が待っているので、別途映画化したら面白い作品になりそうだが

2つ目は控訴審、上告審を完全カットしていること。いくら京都地裁の公判をメインにするとしても、有罪判決が大阪高裁、最高裁(共に無罪判決)で何故覆ることになったか位は触れないとねえ…

本当は京都府警の狙いがはっきり分かれば面白いが、(当時の)関係者が映画に協力するとは思えないし。両側から描くと視点がぼやけるのも事実。本作では警察=プライドだけは高いポンコツでいい

是非、若いエンジニアや研究者に見て貰いたい作品だが、2時間超えだと集中力が持たないだろうな

P.S. 本作にも阿曽山大噴火が出演している。すっかり裁判映画の常連だな

2023年に視聴した映画短評(その3)

*今年観た映画なので、今年公開の作品とは限らない。5点満点で最低点は0

 

・エゴイスト 3.3
高山真の同名小説を映画化した作品。鈴木亮平宮沢氷魚の濃厚なラブシーンが話題になっているが、看板に偽りなし。どこぞの政治家や役人は卒倒するだろうな。覚悟して見に行った方がいいと思うが、ここまで絡みを前面に押し出す必要はなかったと思う

本作で描きたいのはゲイではないと思うし。前半こそ絡みも多くゲイらしいシーンが多いが、後半は…。本作で描きたいのは家族愛とか形にとらわれない愛なのだと思う

全体的にシーンが長いのとパンで空間を認識させるシーンが多いのが本作の特徴だろう。素で行動している感じを出しているのと同時にゆったりとした進行は余韻を持たせ、タイトルの意味を否が応にも考えさせられる

ただ、作品としてはピークが前に来ていて尻すぼみな感じで時間もやや長く感じる。最後も映画っぽい終わり方ではあるけど、意外性はないしね。もう少しシーンに長短を持たせたり、後半の脚本にメリハリが欲しかった

キャストだが、鈴木亮平は流石と言うか、きっちり役作りして臨んだんだろうなと感じさせる演技。でも、本作で印象に残るシーンはやはり濃厚な絡みで、それは宮沢氷魚による所が大きいと思う。色白だし、雰囲気が出ていると言うか。外でキスをするシーンはいい意味でゾクッとした

阿川佐和子は役者のイメージはないが、いい意味で普通の演技で良かった。柄本明は演技の幅が凄い。「ある男」では当に怪演って感じだけど、本作は打って変わって落ち着いた演技で同じ人物とは思えない

上述のように映画としての完成度はそこまで高いと思わないが、同性愛はタイムリーな話題だし、どうしてもキワモノ扱いされがちな日本でこの二人がゲイを演じる意味は大きいと思う。裸目当てなのか女性が多かったが、絡みが目的であっても本作のテーマについては考えて欲しいと思った

 

・REVOLUTION+1 2.0
安倍晋三暗殺事件の容疑者、山上徹也をモデルにした作品。国葬に合わせての公開は一部で上映中止になるなど物議を醸したが、筆者が見たのは国葬に合わせての未完成版ではなく後日公開された完成版

足立監督は元日本赤軍メンバーと言う事もあってテロを礼賛するようなさぞかし過激な作品なのかと思いきや、割りとまともと言うか大人しめの作品。それでも、ネトウヨが見たら発狂するかも知れないが

印象的なのはターゲットを明確にしている所。山上容疑者は安倍に拘ってはいなかったと言っていたと思うが、そんなことはないだろう。勿論、マザームーンとか他のターゲットもいただろうが、旧統一教会への復讐の上で最上級のターゲットの一人だったのは間違いないと思う

それと女性を絡めている所。女性との絡みで自身のコンプレックスを意識すると共に、ターニングポイントにもなりうる存在ってことなのかね。ただ、ネーミングが若い女と若くない女って…。まあ、この辺はフィクションだろうけど

正直、映画自体の出来はいいとは言えない。如何にも突貫工事って感じ。モキュメンタリーだが、時系列が前後する所があって分かりにくい。極力、事実に基づいて制作されているとは思うが、既知の情報の寄せ集めに過ぎず本当の理由に迫るような作品ではないので、そこまで説得力はない

それと最後は妹のモノローグで締めるのだが、これはいらなかったと思う。ただ、上述したように女性がターニングポイントであって、もし妹ともっと話をしていれば犯行に及ばなかった可能性もあったってことを強調したいのか

本作の制作に当たっては山上容疑者に取材をしていないだろうし、別の監督でいいから後日山上容疑者にインタビューした上で事件の真相に迫る作品を期待したい。今のままだと、事件の真相も政治と旧統一教会との関わり合いも有耶無耶になるのがオチだろう

 

・イニシェリン島の精霊 0.5
スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督作品。本年度のアカデミー作品賞にノミネートされているが、如何にもノミネートされそうな駄作という印象。上映時間が2時間を切っているのが唯一の救い

舞台は1923年のイニシェリン島。「都会風を吹かすな」とか言い出す奴がいそうな典型的なド田舎で、住民全員が顔見知り。外界との交流が少ないからか、一癖も二癖もある連中ばかり

そんな島に住む男二人の喧嘩を仲が良かった頃の描写もなく、理由らしき理由も提示せずに描かれてもねえ。まるでひろゆきホリエモンの喧嘩を見ているようで、似た者同士が何やってるのって感じ

精霊とはバンシーのこと。アイルランドに伝わる妖精で、死が近くなると現れ、その叫び声が聞こえた家では死者が出ると言われている。大砲の音は戦争(アイルランド紛争)によるもので、孤島であるイニシェリン島からは遠くの揉め事に思えるってことだろう

バンシーの叫び声を聞いた男がこれまでの生き方を省みたのだろうが、この狭い島で理由らしき理由もなく関係を断てるとは到底思えないし、音楽に生きると誓った男が指を切り落とすのは理解の範疇を超えている

アイルランドの歴史を知っていれば理解度が深まって面白いというレビューも散見されるが、ぶっちゃけ関係ないと思う。それより「スリー・ビルボード」をレンタルするなりして、面白いと思ったら本作を視聴すれば良い。合わない人にはとことん合わない作品。1,900円をドブに捨てるのは勿体ない

 

・あなたの微笑み 2.2
割りと評判が良さそうなので観てみたが、一言で言えば中途半端。物作り系の映画って、明らかに過大評価になりがちだよなあ

素直に自分の作品を上映してくれる映画館探しの旅一本で行けば良かったと思う。映画館探しの中でミニシアターの苦悩、無名監督の苦労をコメディ要素を交えながら描いているが、本作が評価されているのはこの部分であって、"おまけ"ではないだろう

社長も謎の少女も悪くはないが、使うなら最後まで使わないと。何となくフェードアウトって感じだからなあ。映画館巡りの話は面白いのに、中途半端な作品って印象しか残らないのは残念

 

・逆転のトライアングル 0.0
去年のパルムドール受賞作品。パルムドール受賞作品にあまりいいイメージがない上にアカデミー作品賞ノミネートとなると"特級呪物"の予感しかしないが、まさかの"特級汚物"だったとは

ブラックジョークというよりは斜に構えた視線から皮肉る感じはヨーロッパ映画らしい。ただ、本作で何を伝えたいのかが伝わってこないのもあって、スマートさに欠けて野暮ったい

"極刑"評価だけに当然批判のオンパレードになる訳だが、まず無駄に長い。約2時間半の作品だが、ぶっちゃけ1時間半もかからないよねって内容。本作は全3章からなるが、第一章って必要かね。この二人が第二章以降の語り部になるとかではなく、セレブ軍団の一組って扱いなのに。まあ、第三章…

それからシーンに無駄が多い。態々、似たようなシーンを繰り返すし。状況にそぐわないことをしているのは1回で伝わるって。こういう所も野暮ったい

次に"汚物"について。某あとしまつ映画では口走るだけだったが、本作ではリアルにブツが。しかも、しつこく何回も。船酔いして当然の状況ではあるけど、何回も必要ないでしょ。こんなんだったら、ジジババの乱交パーティの方が数段マシ

最後にとにかく雑。所謂ぶん投げENDだしねえ。この薄い内容でぶん投げて、一体何を伝えたいんだよ。本作のメインは第三章だろうが、まず何でこの人に牛耳られるのって思ってしまう

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」なのかね。筆者のような凡人には駄作にしか思えないが、見る人が見れば傑作なのだろう。まあ、本作がヒットするとは思えないし、"被害者"は少ないと思うけど

2023年に視聴した映画短評(その2)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女 3.0
タイトルからするとドクターXのようなやり手が次々と案件をクリアしていく話を想像するだろうが、さにあらず。ただ、主人公のウナを演じたパク・ソダムはスタイルが良くて恰好良く、その点では大門未知子役の米倉涼子とイメージが重なる

勿論、迫力あるカー・チェイスのシーンはあるが、本作はどちらかと言えば人情物。ただ、カー・チェイス以外のアクションシーンも多く、韓国ノワール的なのにコメディ色もある等、韓国映画のごった煮って感じ

脚本は如何にも韓国らしい話ではあるが、要素を詰めすぎた感は否めない。追われている立場なのに緊張感のない行動をしたり、マッチポンプ感もある。もっと緊張感のある、ガチの仕事人って感じの作品にして欲しかった

厳し目の評価だが、これが邦画だったら多分目も当てられない作品になってたであろう。期待値が高い分、どうしても辛口になる。普段から韓国作品をよく見る人にとっては既視感の塊みたいな作品に思えるだろうが、あまり見ない人にとっては楽しめる作品だと思う

 

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター 1.0
2009年に公開されたアバターの続編。某映画評論家が(外国では軒並み1位なのに)日本では1位じゃないのはおかしいと発狂する程の作品らしいが、日本の消費者の目は正しかった。まあ、バスケも戸締まりも鬼狩りも見てないが

映像は素晴らしいの一言。流石、ディズニー。看板映画にはきちんと金と時間をかけるってことだろう。高給取りばかりなのに看板ドラマに安っぽいCGを使って失笑を買うどこぞの放送ヤクザは爪の垢を煎じて飲んだ方がいいんじゃないの。ただ、キャラデザはもっと見分けがつきやすくして欲しかった

これでストーリーが並以上なら高評価も納得だが、残念ながら三流以下。前作に比べて内容的にはスッカスカにも関わらず上映時間は長く、ダラダラ感は否めない。前半2時間を1時間に短縮すればまだ良かったかも

更に内容が薄いのに加えて寒い。欧米人の典型的な価値観って感じ。異国の文化を尊重する気がなく、自分たちの価値観を押し付けるだけ。鯨の話はそういう浅薄さが滲み出ていて、見ていて非常に不快だった

今後、「5」まで制作が決まっているが、まず見ることはないだろう。映像さえ良ければストーリーは二の次な人にはいいかもしれないが、やっぱりストーリーは重要だと思う人は見ない方がいいだろう

P.S. 前作未視聴でも見れないことはないが、前作のあらすじや用語については予習しておいた方がいい

 

・グッドバイ、バッドマガジンズ 2.0
男性向け成人雑誌、平たく言えばエロ本編集部の話。群像劇だが、主に新人編集者の森詩織目線で話が進んでいく

エロ本を題材にしたのは面白いと思うが、本作で褒められるのはこれ位だろう。題材はエロ本だが、エロシーンは皆無。編集部が主体なのでそれでも話は進められるし、エロに抵抗がある人にも受け入れやすい作品ではあるが、個人的には裏目に出たと思う

本作には編集部以外の話も出てくるが、これを蛇足と思うか否かで本作の評価が変わるだろう。「人はなぜセックスをするのか」でこういう結論を出しておきながら、エロシーン皆無は説得力0だと思うけどねえ…

素直にエロ本編集部に絞って話を展開すればよかったと思う。それと本作にも笑えるシーンはあるが、もっとコメディ仕立てで更に内幕に迫る内容に出来なかったかね。出版業界は闇が深そうだし。まあ、そうしたくなかったから、こういう作品になったのかも知れないが

拘りを強調している所はジャンルが違うが「ハケンアニメ!」に通じるものがある。「ハケンアニメ!」が刺さった人には本作も刺さるかも。話題になっていたので期待していたが、個人的には残念な作品だった

 

・バンバン! 3.7
2010年のアメリカ映画「ナイト&デイ」のリメイク。本作も2014年の作品で何故今頃公開って思うが、原作の興行成績が振るわなかったのと「RRR」のヒットを受けてこれもイケるってことなのだろう

原作は109分なのに対して、本作は156分。長くなっている主な要因は二人が出会ってストーリーが進むまでに時間がかかるから。脚本的にも引っ張っているが、インド映画と言えば唐突に始まる歌と踊り。最近はここまで前面に押し出す作品は少ない印象だが、原作との違いを明確化する目的もあるか

ストーリーは「ナイト&デイ」の要素を受け継いでいるだけで違う所が多い。原作に比べてラブコメ色が強く、ストーリーも練られていると思う。ただ、そこまで緻密ではないし、ラージャマウリの作品と比較するとアッサリし過ぎに思える

リティク・ローシャン演じるラージヴィールは体も凄くてカッコいい。ハルリーン役のカトリーナ・カイフは無茶苦茶美人とは思わないが愛嬌があって本作のラブコメテイストに一役買っている。日本版を作るなら、鈴木亮平綾瀬はるかってところかねえ

序盤、冗長なのは事実なので、それさえ乗り越えられればインドの実写版シティーハンターな感じで楽しめるだろう。原作も見たが、原作よりは遥かに面白いし良いリメイク作品だと思う

 

・少女は卒業しない 2.8
朝井リョウの連作短編小説(筆者は未読)を映画化した作品。正直、あまり見ないジャンル(群像劇&恋愛モノ)だが、監督が「カランコエの花」の中川駿、河合優実が主演なので鑑賞した

朝井リョウの作品はごくありふれた青春って感じで、本作もキラキラした青春や恋愛を描いたものではない。演技も素って感じで、それを監督がカメラワーク等を工夫して印象付けている。特に、まなみの息遣いはセリフはなくても訴えかけるものがある

ただ、皆、平等なのはどうなのか。原作は連作短編集で、その内4つのエピソードを抜き出したのだと思うが、最後まで交互に話が進行していくのはどうなのかね。それぞれのエピソードを大切にしているのだろうが、もっと強弱をつけるべきだったと思う

構成からしてまなみの話をメインにすべきだっただろう。まなみの話はカットされすぎて、原作未読だと経緯が良く分からないし。それと最後は陳腐過ぎる。ここまで表現に気を遣ってきて、これはねえ

キャストだが、河合優実は主演とは言え出番は他の3人とそれほど変わらないので、彼女のファンにとっては不満かも。まなみ以外の中心人物役の小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望も悪くないが、惜しいのが森崎役の佐藤緋美。もっと歌が上手ければねえ。まあ、普通なのは本作の世界観には合っているけど

でも、MVPは藤原季節かな。本作は清い青春映画だが、実は生徒を食べちゃってそうな怪しげな雰囲気が何とも言えず良い。こういう構成だと、主役級よりインパクトのある脇役が目立ちがち

原作の映画化としては上手くやった方だとは思うが、本作を面白いと思うかは別問題。朝井リョウのファンや青春群像劇をよく見る人には刺さるかも知れないが、そうでない人を唸らせるまでの作品ではないと思う