2020年に映画館で視聴した映画短評(その7)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・ウルフウォーカー 3.1
人間と動物の共生という一昔前のジブリのようなテーマ。二律背反である局面が多く出てくるのは悪くないが、考えなしに両立させようとする行動で事態を悪化させる展開が多く少々イライラする。もう少しブラッシュアップできなかったものか

映像と音楽は素晴らしく世界観をよく表現できていると思う。最近は日本のアニメを意識した作品もあるが、お国柄が反映された作品の方が好み。高評価している人も多く公開拡大を望む声もあるが、二律背反は最近の日本のコンテンツに染まった客層には受けなさそうで厳しいかも

 

・水上のフライト 4.2
恋愛要素に逃げることなく、心理状態の変化、パラスポーツの現実について無駄なくプロセスを追った作品。中条あやみは体型的に走り高跳びの選手に見えるし、今までで一番役に嵌っていたのでは

ただ、こういう作品ってウケないんだよなあ。見栄えの良さや競技以外のことで興味を引く"軽い"作品の方がウケがいいのが現実。この作品の題材であるパラカヌーは絵面的に地味だし、それだけスポーツに全く興味がない人が多いってことなんだろうなあ

 

・佐々木、イン、マイマイン 3.2
あるあるって感じの映画。大人の人間関係はどうしても腹に一物ある感は否めず、打算的なことを考えないで済んだ学生時代を思い返すことは誰しもある筈で、男同士の適度な距離感がおじさんには刺さるだろう

佐々木の現状が分かって終わりでないのは良いが、オチがねえ…。このオチにするなら、これが笑える脚本にして欲しかった。オチだけ浮いてしまっていて余韻も無くなっちゃうしで残念

 

・ミセス・ノイズィ 4.7
とにかく素晴らしい脚本力。それに尽きる。モチーフは騒音おばさんと思われ少し昔の話だが、うまく現代に落とし込んでいるし、一見関係無さそうな展開も自分の価値観に拘って周りが見えていない故に相手のことが理解できないという点で繋がっている

極力ネタバレ要素はない方がいいと思うので手短に。今はSNSの普及もあってエコーチェンバーに陥りがちで自省のためにも是非とも見て欲しい

 

・天外者(てんがらもん) 3.0
一言で言えば、何故この脚本にした?

wiki五代友厚を調べれば分かるように多大な業績があり、掘り下げようとすればそれこそ大河ドラマ並の尺が必要なので、一生を追おうとすると忙しい映画になってしまうのは致し方ないと思う

ただ、この作品は海軍伝習所〜英国視察に赴くまでに尺を割き、五代の具体的な業績に関しては殆どカットというかなり極端な構成になっている。業績はネットで調べれば分かることだし、中途半端に触れる位なら(知られていないであろう)五代の人柄に焦点を当てた構成にしたのも分からなくはない

ただ、五代は大阪や鹿児島ならともかく全国的な認知度は低いと思われるし、この映画は五代をもっと知って貰う為に制作した筈。それに映画としても取ってつけたようなラストじゃなくストーリーで盛り上がっていかないと。最近は終わりよければな映画が多いのは事実だが、映画ファンはそんなに甘くない

更に言えば、盛り上がりに欠けるだけでなく違和感がある。一つだけ挙げれば、はる死去からすぐ気づいたら豊子と結婚していることになっているのはヤバすぎる。○田純一じゃないんだから。まあ、三浦春馬ほどのイケメンならイチコロ(死語)かも知れないけど

若い頃夢見た新しい日本の姿を英国から帰ってきた五代が実現すべく奔走する。坂本龍馬伊藤博文の伝記作品を作ろうとすれば一ひねり必要だが、今までほとんど題材になっていない五代ならベタで良かったと思うし、その方が映画としても評価が上がっただろう

純粋な映画としての評価は2点台かなと思うが、三浦春馬演じる五代友厚は特筆すべき素晴らしさであること、コロナ禍、ポピュリズム政権の終焉と言う先の見えない時代に五代のような先見性と信念を兼ね備えた人物にスポットライトを当てるのはタイムリーであることを考慮してこの点数にする

キャストについては言いたいことは色々あるが、松井と吉村、チョイ役で公務に支障をきたすとは思わないがお前ら仕事しろ。それから、どうしても三浦春馬に注目が集まりがちだが豊子役の蓮佛美沙子が良かったと思う

 

この作品、低評価(1.5点以下)をつけている人の殆どは五代友厚は勿論、幕末から明治初期にかけての歴史も知らない興味ないと思われ、歴史の知識は不可欠と言える。まあ、何故三浦春馬にも歴史にも興味のない人がこの映画を見たいと思ったかの方が個人的には気になるが

・中学レベルの歴史
最近の指導要領とか知らないが、黒船来航〜西南戦争位まで年まで網羅する必要はないが、何が起こったか位は押さえておく必要がある。事象に事細かに触れる訳ではないが時代背景は重要

・主要人物について最低限の知識
坂本龍馬伊藤博文は知っているとして、主人公の五代友厚岩崎弥太郎、グラバーは?五代友厚が「東の渋沢、西の五代」と言われた大実業家でボロボロだった大阪経済を立て直した立役者であること位は知ってないと。映画で殆ど触れないからなあ…

・幕末の薩摩藩について
生麦事件→薩英戦争を経て薩摩藩は英国と関係を持つようになり、故に五代らの英国留学も実現したが攘夷派も当然いた。五代は捕虜になった悪評(当時の価値観なら自害だろう)もあってなかなか薩摩に戻れなかった

 

その他として、できれば幕末に関する作品を見るなり読むなりして当時の国策に関する考え方とか世相とかは知っておいた方が良いかも。時代劇や大河ドラマが好きな人なら普通に知ってるレベルだと思うが。三浦春馬のファン以外が知識なしにこの映画を観るのは時間と金の無駄になる可能性が高いだろう