2022年に視聴した映画短評(その8)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・マイスモールランド 3.5
クルド人難民問題を扱った作品。本作は飽くまでフィクションであるが、そもそも難民認定自体が極めて曖昧なので突然梯子を外される展開にはリアリティがある。今の日本の役所に「シンドラーのリスト」は期待できない

意識高い系作品と思われるだろうが、そうでもないと思う。ベースとなっているのはサーリャと聡太の淡い恋物語で、難民問題だけでなく普通の高校生が直面するような話もあるし、中々日本に馴染もうとしないクルド人達への批判もあったりするので日本政府がけしからんとイキるような内容ではない

全体的に丁寧な作りで女性監督らしいと思うが、ラストも何となく希望を持たせる感じでシビアさが足りない気も。本作は飽くまで問題提起であり特定の人達を詰るような作品にしたくないのは理解できるが、モヤっとした感じなのも確か

キャストについては聡太役の奥平大兼も悪くないが、サーリャ役の嵐莉菜の存在感が光った。5カ国にルーツを持つと言うことで、本作で扱われているような内容を実感したこともあるのだろう。それと池脇千鶴を久々に見た。中山美穂に比べるとだいぶ若く見える

映画自体の出来は3.0点位と思うが、このタイミングでの公開を考慮してこの点数で。そもそもウクライナ人を受け入れるべきなのか。ウクライナ人にも本作のような展開はあり得るがウクライナ人は特別なのか?それとも他の外国人と同じなのか。なあなあで彼らを振り回すようなことはあってはならない

 

・死刑にいたる病 3.7
阿部サダヲがシリアスな役を務めるのはどうかと思っていたが、冷静さの中に狂気を内包しているシリアルキラー役を抑えた演技で好演していたと思う。岡田健史の少しずつ何かに取り憑かれていく感じも良かったし、岩田剛典も今まで演じてきた役からすると意外な感じだった

個人的には宮崎優を推したい。目立たない感じだがラストはこうなるとはね。出来ればすっぽんぽんでおっぱじめながらあの台詞を吐くとよりヤバさが際立ったと思うが、流石にそこまでは無理か。華奢で童顔だけど胸は大きい吉岡里帆タイプ。今後の活躍に期待したいが、女性には好かれないかも

ストーリーは及第点を付けられる出来。癖のある人物が多いが、その「癖」が伏線になっている。雅也の懸命の調査で伏線回収が進み、事実が少しずつ明らかになっていく感じはサスペンスとして良く出来ている

ただ、榛村vs雅也の心理戦としてはイマイチ。榛村が雅也に単に助けを求めている訳じゃなく狙いがあるのは明らか。雅也もそれに気づくが、気づいて次に会う時にはもう終わりだしねえ

後、中途半端にリアルを持ち出すのもどうかと。確かに余りにリアリティに欠けるのも何だが、シリアルキラー自体リアリティに欠ける訳で。Fラン大学の悲哀とかそういうエピソードって必要かって思ってしまう

ラストも賛否分かれるだろうし、グロシーンは当然のようにあるので人を選ぶのは確かだろう。十分面白いんだけど、4点以上付けるには足りないって感じの作品

P.S. エンドロールの阿曽山大噴火に笑った。裁判ウォッチャーとして知られる大川興業の芸人だが、裁判傍聴席にいたんだねえ。ただ、本作は小ネタで笑えるような作品じゃないからなあ

 

・英雄の証明 1.5
2021年のカンヌ映画祭グランプリ受賞作品だが、率直に言って期待外れ。まあ、映画賞なんてこんなものでしょ

人物の素性は勿論、バッグを拾った経緯にすら立ち入らない、SNSで何が起きたかも良く分からないと言うのはファルハディ監督流なのだろう。それぞれの行動の可否とか言う次元ではなく、もっと大局的に捉えてくれって感じなのだろうが

誰が悪いという訳では無く、社会に訴えかける作品と言う点ではケン・ローチっぽいのだが、主人公含め行動に一貫性がなくいし、ストーリー上吃音症の子の必要性を感じられないしで"劣化ケン・ローチ"って所か。今後の作品は勿論、過去の作品も観たいとは思わない

それにしても、イランの刑務所は"地獄の沙汰も金次第"を絵に描いたような所としか言いようがない。石油王なら邪魔者は全て消して金でもみ消せそう。南米の刑務所もヤバいようだし、日本はまだまともなのだろうか

 

瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと 4.0
瀬戸内寂聴のドキュメンタリーではあるが、寂聴の一生を丁寧に辿るような内容ではない。寂聴が気の置けない関係である監督の前で大いに語る感じ。寂聴を知らない人向けではないが、寂聴に興味が無い人はそもそも本作を見たいとは思わないだろう

「恋愛は理屈じゃない」と言い放つだけあって正に肉食系女子って感じ。奔放な恋愛は当時でさえ非難の対象で、今だったらボコボコに叩かれているだろう。不倫は1人だけじゃないからね

そんな寂聴だから出家した後も生臭坊主そのもの。守っている戒律は禁SEX位って、51歳で出家した人が言ってもねえ。本作中で旨そうに肉を喰らい、酒を嗜む寂聴の姿が印象的だ

ただ、「名選手、名監督にあらず」とは言い得て妙で、こういういい加減な人だからこそ法話は笑いに包まれ、説教臭くなく心に響く。ストイックな生活をしている僧が「ストイックに生きよ」と説いても俺には無理って感じで拒絶反応を示すだろう

本作を見て瀬戸内寂聴は素晴らしい人格者だとは思わないだろうが瀬戸内寂聴っておもろい奴やなとは思える筈で、寂聴の魅力が伝わってくる作品だと思う。やっぱり聖人君子よりも道を踏み外してる人の話の方が面白い

 

・やがて海へと届く 1.0
駄作。伝わらない作品の典型。大切な人を亡くした喪失感から立ち直る姿を描いたドライブ・マイ・カーみたいな話になるのかと思ったが、そこに重きを置いているとも思えない

こうなる要因は原作にあるようで、原作は章立てされていて真奈パートとすみれパートが交互に展開していく。すみれパートはかなり抽象的なようで、これが本作が分かりにくい原因の一つだろう

話を交互に展開して最後に上手くクロスオーバーさせられればいいが、映画の尺もあるから上手くいかないこともある訳で。本作をすみれパートメインにするとかなりボヤっとした作品になりそうで、思い切ってすみれパートを削除する位じゃないと映画としては伝わらないように思える

最初と最後に挟まるアニメパートも正直狙いが分からないし、岸井ゆきの浜辺美波のファン以外にはお勧めしかねる