2022年に視聴した映画短評(その3)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・DUNE デューン 砂の惑星 1.0
レビューを書くつもりはなかったが、アカデミー作品賞にノミネートされた様なので率直な感想を。当方、原作未読、リンチ版未視聴。本作を一言で言えば「人を選ぶ映画の典型」。大作で売り上げが必要だろうにこんな間口の狭い作品にするとはね

本作の魅力は何と言っても圧倒的映像美。世界観を体現している。衣装にしてもケチケチするのではなくお金をかけているし、幻想的な風景は異世界感がある。ただ、遠い未来の話なのに古代っぽいのは原作の世界観なのだろうが、全体的に画面が暗く単調なのはストーリーも相まって眠気を誘う

で、肝心のストーリーだがこれが酷い。DUNE自体がゆったりとしたテンポで進む(らしい)上にビルヌーブの作風と重なってビックリするほど話が進まない。起承転結と言われるが、本作は起起起起と言って差支えない。1シーンが長い上に予知夢シーンが結構な頻度で挟まるのでテンポの悪さに苛ついてくる

ストーリーが難解と言うレビューもあるが、寧ろストーリーは解りやすい。ただ、バックグラウンドに関しての説明が皆無なので、ただでさえ薄いストーリーに説得力がない

ボロッカスに扱き下ろしているが、DUNEヲタにとっては単調な風景も、ストーリー展開が遅いのも、余計な説明がないのもDUNEの重厚な世界観を体現していると考えられるのだろう

要は本作は(多分原作も)世界観を(理解せずに)感じる作品なのだろう。とは言え、理解せずに感じて素晴らしいと思える人はそこまで多くない筈。本作を堪能したいのなら予習は必須なのだろう

日本ではどうか知らんが次作は2023年10月公開らしい。このテンポで展開して次で完結するのかねえ。本作は赤字ではなさそうだが、この作風では本作を観ていない人が観るとは思えず興行収入の低下は確実だろう。次で完結しないと最悪打ち切りもありそうだが…

 

・パワー・オブ・ザ・ドッグ 3.0
Netflixで配信されている作品。劇場公開は期間限定だった筈だが、アカデミー作品賞にノミネートされたからなのか幾つかの映画館で公開されている

脚本は非常に緻密で登場人物の心情の描写は勿論、後々の行動の伏線となるような言動が散りばめられている。ただ、全体的には展開に乏しく、最終盤の展開が無ければ凡庸な作品だっただろう。まあ、映画評論家は好むかも知れないが

時代的なものか映像は全体的に暗いが、ストーリーも明るいものではないし何がテーマなのか伝わってこない作品でもある。タイトルは聖書に因むようだが宗教的要素は皆無だし、西部劇ではあるが古き良きアメリカを礼賛するような作品でもないし

キャストは粗野だが繊細なところもあるフィルを演じたベネディクト・カンバーバッチと弱弱しく見えるが狂気を秘めたピーターを演じたコディ・スミット=マクフィーが印象に残った。各キャラ二面性がしっかりと描かれていて、(女性監督から見た)男性の真の強さの描写なんだろうか

上述のように如何にも映画評論家好みの作品でオスカー最右翼と言いたいところだがネトフリ配信はやはりネック。ネトフリにはやりたくないと言う意識が強いように思えるし。個人的には良くできた作品だが、作品賞まではと思うが果たして

P.S. 余計なお世話だと思うが最後呆気にとられた人へ。〇〇〇完成のシーンがミソで、〇〇を運んできたのは誰?印象に残るシーンがあった筈。でも、どこまでが仕込みなのかね。〇〇〇作りからだったら相当だが、流石にそこまではないかな

 

・ミラクルシティコザ 3.0
沖縄ではかなり評判がいい作品らしいが。タイトルのコザは昔沖縄にあった市で、1974年に美里村と合併して沖縄市になっている

本作の一番の魅力は1970年当時の空気感が伝わってくること。ベトナム戦争景気に沸くコザのメインストリート、アメリカ統治末期で秩序は乱れカオス状態、米兵相手にアメリカの曲をカバーするバンドが多く存在したという

米軍が日本人を舐め切っているのは今も変わらないが、じゃあ米軍出ていけという単純な話ではない。1970年当時だけでなく今でも沖縄経済への影響力は大きい。そういう複雑な感情をコザの過去と現在を通じて映し出す本作は沖縄の人には特に刺さるのだろう

ストーリーに関してだが、もっと脚本をブラッシュアップして欲しかった。タイムスリップx入れ替わりは安直と言えば安直だが、問題はその設定をどう活かすか。何故、タイムスリップしてまでやり直したいのかが伝わってこない

そうなってしまった要因の一つが要素の詰め込み過ぎ。終盤、泣かせる要素が多いが感情移入できないからねえ。もっと絞って深い描写をすれば最後は皆が泣ける作品になったと思う

それからORANGE RANGEの主題歌が作品の世界観に全くマッチしていない。沖縄出身だし主題歌くらいは有名なバンドにってことだろうが、主題歌で映画を観る人は少ないと思うし何より映画の余韻に関わるからねえ

沖縄の人なら問題ないだろうが、沖縄の歴史を多少は知っておいた方がいい。1972年に沖縄が日本に復帰したことは知っているだろうが、1970年のコザ暴動(騒動)についてWikiレベルでいいので調べてから本作を視聴すべきだろう

アカデミー賞Twitter企画をやっているようだが、来年のノミネート作品も同様の企画をしてくれないかね。本作がノミネートされることはないと思うが、ハリウッドのセレブ達にどう映るのか非常に興味がある

 

・ドント・ルック・アップ 4.3
アカデミー作品賞ノミネートNetflix枠の2作目。こちらも一部劇場で上映されている。ネトフリが関わっているからかコメディ映画の割にお金をかけている印象で特にキャストは無駄に豪華

本作の感想を一言で言えば「ドンピシャ」。巨大彗星を新型コロナウィルスに置き換えれば今の社会そのもの。脅威も政治ショーの道具でしかなく、脅威に対応しているように見せかけての利益誘導、失敗したらしれっとスルーする。本作の舞台は勿論アメリカだが日本も変わらない

マスコミにとってもゴシップネタの一つでしかなく深層に迫ろうとせずに漠然とした不安を垂れ流すだけ。ネットには陰謀論を含め不都合な事実は完全無視の極論ばかりが罷り通り、思考停止した連中を巻き込んで分断が顕著になる

タイトルのドント・ルック・アップはダブルミーニングになっているし良く考えられたシナリオではあるが、上映時間は少し長いかも。ダラダラと長い印象はないが、コメディだしテンポよく2時間弱位で纏めて欲しかった

それから露骨にトランプを揶揄するのもどうか。トランプ批判が悪いとは思わないが、社会全体に問いかけるような硬派な内容がぼやける感じ。まあ、(トランプの)政策よりゴシップの方が話題になるという婉曲的な皮肉もあるのだろうが

本作がアカデミー作品賞に選ばれることはないだろうが、ネトフリ作品の上にこの内容、ノミネートされたのが不思議だ。アカデミー賞も変わりつつあるってことだろうか

 

・ドリームプラン 2.0
ビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹を育てたことで知られる父親のリチャードを描いたドラマ。リチャードはテニス未経験で常識に囚われず独自のスタイルを貫く。日本で例えるならプロボクサーの経験無しで興毅、大毅、和毅を育てた亀田史郎ってところだろうか

率直に言って内容は物足りない。2時間20分程の上映時間はダラダラ感はないものの薄い。ドリームプランは娘を世界チャンピオンにする為の計画書の筈だが、世界チャンピオンどころかビーナスがプロデビューした所で終わりは酷すぎる。セリーナはデビューすらしてない訳だし

本作の原題はKing Richard。家族は勿論、周囲に対する態度は横暴そのもの。娘を守っているようで自己実現の手段にしている感はあるし、娘にはタダには手を出すなと言っておいて家族全体で寄生しようとしたり支離滅裂。まあ、実際のリチャードの素行はもっとヤバいんじゃないかな

ただ、教育内容に共感できる部分があるのは事実で、テニスだけでなく学業や躾、普通の女の子がするようなことも大事と言うのは万が一プロとして大成しなかった場合は勿論、黒人選手と言うだけで軋轢があるのが現実でそれに一々ブチ切れていたらプロとしてやっていけないだろう

それとジュニアで試合に出なかったのは、プロになっても試合数を絞るようになり結果的に息の長い選手になった。ジュニアで試合に出まくっていたらカプリアティになったかどうかは分からないが、ウィンブルドンでの伊達公子との名勝負はなかったかも知れない

内容はこれ位にして、最悪なのはタイトル。ドリームプランはないでしょ。ドリームプランの中身なんか殆ど触れてないのに。タイトル詐欺、予告編詐欺はいい加減止めた方がいい

本作はテニスに関する内容は薄いのでテニスファンにはお勧めしかねる。寧ろ、テニスなんて知らない興味ないが家族愛ものが好きな人向けの作品だと思う。勿論、ウィル・スミスのファンにはお勧めできる