2021年に視聴した映画短評(その3)

*今年観た映画なので、去年の作品も含みます。5点満点で最低点は0

 

・ダニエル 1.0
ティム・ロビンススーザン・サランドンの息子マイルズ・ロビンス、アーノルド・シュワルツェネッガーの息子パトリック・シュワルツェネッガーが共演、制作は"ロード・オブ・ザ・リング"のイライジャ・ウッドと話題性はあるが、果たして中身は?

二世俳優達の演技は良かった。と言うか、それしか見どころはない。ストーリーは前半はサスペンス、後半はスリラーと言う感じだが、一粒で二度美味しいとはならず後味の悪さが後を引く

ストーリーは抽象的な部分が多く、スッキリしない。ルークがどういう解決方法を選ぶか途中で気づく人は多そうだが、ホラーだし映像で魅せればそれで問題なし。だが、肝心のシーンは余りに迫力不足であっさりとしていてガッカリ感が半端ない

更にラストシーンが酷すぎる。このような決断をするしか解決方法はないのか。この映画の脚本力じゃこうなるかも知れないが、世間一般ではそうではないのでは。うーん、今年の洋画はハズレが多くてガッカリ…

 

・すばらしき世界 4.5
元ヤクザの出所後を描いた作品として少し前に公開された"ヤクザと家族"と比較されることが多いと思うが、"ヤクザと家族"は山本を通して(暴対法の締め付けが厳しくなった)現在のヤクザという組織に重きをおいているのに対し、こちらは三上の更生がメイン

今作の舞台は現代であるが、原作は1990年に刊行された佐木隆三の小説"身分帳"。1992年に暴対法が施行されて以降、現役のみならず元ヤクザを取り巻く環境は日に日に厳しくなっていて、今作も現代の実情に合うようにストーリーの改変が行われている筈

元ヤクザを取り無く環境については"ヤクザと家族"でも扱われているので、先にこちらを視聴しておくとこの映画の背景がより理解できるかも

この映画の一番の売りと言えば、何と言っても役所広司の演技だろう。キレ易くキレたら怖い関わりたくないタイプの性格とどことなく人懐こくて憎めないところが同居している人物を演技だけでなくオーラでも表現している。本作は重いテーマではあるが、役所のコミカルな演技がそれを中和している

もう一つ挙げると、中々社会に順応できない三上の厳しい現実を只管描くとかそんな三上を厳しく叱責する作品もあり得た中、人々の暖かさに触れ、叱責するではなく諭して三上自身が考え変わっていく姿を描いたのが凄く良かった

ヒューマンドラマ強調は陳腐化して駄作になることも多々あるが、重いテーマの本作には柔らかさも必要で、こういう作風は最近のクリント・イーストウッドに共通するものがある

難点としては、終盤にかけてストーリー的な盛り上がりには欠けるところと最後はなあ…。タイトルの意味はより伝わると思うが、映画的には電話→三上の部屋が映るまでで良かったかなと思う

最後に、この作品を"すばらしき世界"というタイトルにした西川監督のセンスは素晴らしい。邦画はまだしも洋画はクソとしか言えないタイトルが目立つ。"エジソンズ・ゲーム"とか恥を知れとしか思えないが、関係者は素晴らしくキャッチーなタイトルでヒット間違い無しとか思っているんだろうなあ

 

・ラーヤと龍の王国 3.3
ディズニーアニメはあまり観ないが珍しく視聴。配信優先に嫌気が差したのか大手シネコンはイオンとユナイテッドのみ。1日に4,5回上映しているにも関わらず吹替ばっかりなのはディズニーの圧力なのか?西村や小池みたいに尊大にならず謙虚な姿勢を望みたい

まあ、観たのは字幕版だが。吹替版なら絶対観に行かないし。ありがとうkino cinema

前置きはいいとして映像は素晴らしい。最近は日本のCGも良くなっているがレベルが違う感じ。技術と言うよりかけられる金と時間の差だろう。"鬼滅の刃"や"呪術廻戦"が高評価なのはバトル物は作画の良さがより引き立つという側面があると思う

ストーリーについてだが信じる心がテーマなのは良く分かる。ドルーン=plagueだったり、バラバラになった王国が一つにと言うのはコロナ禍の今をかなり意識しているのだろう。実際、この作品もリモートワークで多くの人が参加しているようなので

ただ、タイトルが最後の龍(邦題は龍の王国)、国の名前がheart(心臓),tail(尾),talon(鉤爪),spine(背骨),fang(牙)ってどんな話か一目瞭然。深いストーリーよりテンポの良い冒険活劇を見せるにしても浅い。まあ、最後の龍を見つけて終わりではないので酷いって程ではないが

最大の問題は人を信じられないラーヤやナマーリがいかに人を信じられるようになったかという心の機微の描写が皆無なこと。ラーヤについては国を訪れる毎に仲間が増えて心を開いていくのかと思う反面、バカ正直を絵に書いたようなシスーにマッチポンプを強いられては容易に心を開くとは思えない

ナマーリに至っては直前まで明らかに自分のせいな場面でさえラーヤのせいにするような人物があっさり改心してもねえ。筆者だけでなくストーリーが浅いというレビューが散見されるが、こういう所も原因だと思う

それと、ティズニーアニメなのに歌がない。個人的には無くても構わないが、アナ雪とかアラジンみたいなのを期待するとガッカリするかも

ディズニーアニメ=吉本新喜劇なんだろうな。好きな人はお約束を満たしていれば高評価、そうでない人はこれのどこが面白いの?って視線になるので、そういう視点で観るとボロが出てくるってことだろう

厳しいことも書いたが、最近のディズニーアニメにしてはかなり良い部類の作品なのは事実。まあ、あまりディズニーアニメを観ない人の意見なので説得力に欠けるかも知れないが、ディズニーアニメ好きの中には最高傑作という人もちらほらいるし観て損はない作品だろう

 

・ステージ・マザー 4.1
ステージママと言えば古くは宮沢りえ、最近だと森七菜のお母さんって感じだが、そういう話ではなく他界した息子が残したゲイバーの経営を立て直す話。ジェンダー、薬物、老後、都会と田舎とかバックグラウンドは硬派だが、そういうのを抜きにして楽しめる

主人公のメイベリンはマザーと言うよりはグランマといったいで立ちだが、その分貫禄と包容力がある。スタッフ達に寄り添う様子は文字通りステージに関わる人達のマザーだ

難点は約90分の映画とは言えサクサク進みすぎること。最後はこの映画らしい〆なのだが、これももう少し苦労を描いていた方が活きただろう。ただ、難しいテーマを内包した作品をショー的雰囲気で楽しく見られるようにしたいというコンセプトは伝わるし、破綻しているという程でもない

観客は女性ばっかりだったが、ホテルのコンシェルジュが"プリンセス・プリンシパル"のLを彷彿とさせるシブいイケボのおじさまでおばさま(失礼)には堪らないかも

 

KCIA 南山の部長たち 3.7
1979.10.26に発生した朴正煕大統領暗殺事件を題材にした映画。史実を元にしたフィクションなのでどこまでが事実かは分からないが、歴史のダイナミズムを感じさせる

とは言え正直地味。KCIAのトップが主人公で所謂実行部隊ではないので画的にも地味。部下からの報告を待つシーンが多いが、それが弓がじわじわと引かれていく感じでいつ放たれるのかという緊張感に繋がっている

難点は韓国の名字問題。朴さん金さん多いからねえ。中々顔と名前と役職が一致しない

本作は事件発生までの40日を描いているので、暗殺日を覚えておくか日付は意識した方がいい。それと人物を把握しにくいこともあり、当時の韓国の国家組織を含むこの事件の背景を理解しておいた方がいい。筆者は簡単にはさらったつもりだったが、把握するまで時間がかかった

それとこの作品、結構日本が出てくる。突如日本語を話しだしたり。サンデー毎日が出てきた時は笑いそうになった。伊藤博文の千円札は懐かしい

それにしても、韓国の近現代史作品は一定以上のクオリティが約束されたジャンルという感じ。ドキュメンタリーとエンタメを上手く両立させている。日本ではそもそも近現代史を扱った作品自体少ないし、重苦しい雰囲気は好まれないからねえ